「現場でAIを作る時代」が来るか、ノーコード開発ツールの可能性:製造現場向けAI技術(2/2 ページ)
AI insideは2021年4月21日、プログラミングの非専門家でも簡単にAIモデルを作成できるノーコードAI開発クラウドサービス「Learning Center」を提供開始した。同サービスの特徴やノーコード開発ツールの可能性について、同社 代表取締役社長 CEOの渡久地択氏に話を聞いた。
開発期間を約6分の1に短縮可能
DNPによるエレベーター前の混雑度分析用AIモデルの開発期間は約2カ月程度だった。渡久地氏はケースによって異なるので一概には言えないと前置きをした上で、「同程度の水準のAIモデル開発をITベンダーに外注すると、約1年程度かかる可能性が高い。それと比較すると大きく短縮できたことになる。まだ操作や準備に慣れない段階での実績値なので、より時間を短縮できる可能性もある」(渡久地氏)と語る。
この他にもDNPはLearning Centerを用いて、ICカードに用いるホログラムの外観検査用AIモデルも開発している。企画から開発、検証までの期間は約30日程度と短期間だった上、学習データは正常/異常を併せて約100枚程度で済んだという。
製造業の領域では、主に外観検査や、映像による作業分析と改善、立ち入りなどを監視する安全管理向けなどの用途でのAIモデル開発を想定する。Learning CenterのAPIを活用することで、特定の異常を検知した場合に警告を送信するなどアラート機能を持たせることも可能だ。
Learning Centerのアカウント発行から学習データ作成までの機能は無料で利用可能。AIモデルの設計後は新たな学習時には月額10万円、モデルの使用時は月額3万円の定額料金が発生する。
OCR事業で培った“汚いまま読み取る”技術
Learning Centerの特徴は大きく分けて2点ある。1つは非開発者向けのノーコードサービスという点だ。
渡久地氏は現時点で数は限られるが、国内外のIT企業がノーコード/ローコードAI開発ツールを展開していることに触れて「これらのツールでは画像の整理や前処理、パラメーターのチューニング、専用サーバを立ち上げてデプロイするといった作業を開発者に求めることも多く、全くAI開発経験のない現場担当者がすぐに扱うのは困難だ。一方でLearning Centerはこうした手間をほとんど全て省いているため、誰にでも扱いやすいサービスとなっている」と説明する。
もう1つの特徴がAI insideがこれまで注力してきたOCR分野でのノウハウや技術力を生かしている点だ。
「OCRの世界では一度に6000以上の文字を個別にAIに見分けさせる。しかも、手書きアンケートに書き込まれた文字は乱雑に書かれることも多いので、文字認識の難易度が高い。読み取る画像に影が映り込んでいる、文字がかすれているなどAIにとって好条件とは言い難いケースも多い」(渡久地氏)
こうして培ってきたのが、画像を“汚いまま読み取る”という技術である。例えば、書類などに印刷されているけい線は、FAXでの送信時などに文字色との区別がつかなくなることを防ぐため、OCRを行う場合は除去するケースが多い。しかし、除去時に文字の横線部分などが併せて消されてしまうリスクもある。このためAI insideは、前処理をあまり行うことなく高精度の文字認識を可能にする技術を用いてOCRを行ってきたという。
渡久地氏は「これらの技術は製造業の生産/検品プロセスでも生かせる。製造業の現場において、読み取り環境が常に一定の条件下で保たれていることは少ない。ラインで生産する製品が短期間で変わる可能性すらある。Learning Centerはこうした変化に対しても柔軟に対応できる。毎日は無理だとしても、1週間など定期的に生産ラインに合わせたAIモデルを開発して導入することも可能だ」と説明する。
製造業の現場でも「使える」サービスを目指す
ノーコードAI開発サービスの市場について、渡久地氏は「まだまだ黎明(れいめい)期の段階だが、今後は開発者/非開発者向けという軸に沿ったノーコードAIサービスが開発されていくだろう」と語る。一方で非開発者向けサービスでは「簡単なモデルが作れる」「開発を楽にする」というツールは出ているが、現場での実用性に耐え得るツールは少ないとも指摘する。
「当社が目指すのは、製造業の現場でも実用に耐え得るAIモデルが作れるノーコードAI開発サービスだ。前処理を行う手間なく、同一アーキテクチャで複数の用途に適用できるようなサービスを開発していく」(渡久地氏)
また、ノーコードAI開発ツールをさらに有効に活用する上では、現場担当者自身がデザインシンキングや業務課題の探し方などをある程度身に付けておく必要もあると指摘する。
「AIについて基本的な概要だけでも学んでおくと、自身の業務を振り返って『こういうプロセスにも使えるのではないか』という発見をしやすい。逆にこうした学びが不十分だと、例えば『100%の精度が出ない限りAIは使えないものだ』といった固定観念を捨てきれず、AIの活用範囲を狭めてしまうことにもなりかねない」(渡久地氏)
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