なぜ製造現場のAI活用がうまくいかないのか:いまさら聞けないスマートファクトリー(7)(2/4 ページ)
成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。前回から製造現場でつまずくポイントとその対策についてお伝えしていますが、第7回では、製造現場でのAI活用の課題と生かし方について解説します。
なぜ製造現場でAI活用がうまくいかないのか
さて、前回、「人手作業のデータ化」で現場の理解が得られずに悩んでいた矢面さんですが、着実に前に進んでいるようです。
印出さん、こんにちは。
矢面さん、こんにちは。元気そうね。人手作業のデータ化でみんなから嫌われていた問題は解決しそうなの?
いやだなあ、印出さん。嫌われていませんよ。あの後、しっかり話し合って、今までの作業工程を変えることなく、データが取れるようにしたんですよ。
あら、どうやったの?
一番取りたかったデータは、1つ1つの作業のタクトタイムだったので、作業員が特に新たに何もせずにデータが取れるようにするにはどうしたらいいか考えて、工具の位置の情報を取得するようにしました。作業の開始と終了が自然な動作の中から自動で取得できるようになりました。
あら、よかったわね。今日はその報告?
それだけじゃないんですよ。設備や人作業のデータが取れるようになってきて、そのデータを活用するために、AIの活用を検討しているんですが、うまくはまらなくて悩んでいるんです。
どういうこと?
品質検査や、装置の予兆保全で、AIを活用した自動化の仕組みを検討しているんですが、費用対効果が得られる感じにならなくて悩んでいるんです。
そうね。そこは難しい問題かもしれないわね。
現在、AI技術として注目されているのは、深層学習(ディープラーニング)を中心とした機械学習技術です。こうした技術は、基本的にはコンピュータがデータを学習することで人が明確な条件を定めなくてもAIが自動で最適な判断をするモデルを構築できるという技術です。そのため、正しい結果が得られるようにデータを準備したり、学習させたりする負担が生じます。
現在では、その学習の負担を減らすように事前学習を行ったAIモデルを提供するようなケースも増えていますが、製造現場で最適に適用するためには、個々の現場でのチューニングが必要になります。また、製造現場では、その十分なデータを用意するということがまず大きなハードルになります。
例えば、よくあるのが、不良品をAIで見つけ出す品質検査に関する仕組みにおいて「不良品のデータが少ない」というケースです。もともと不良を出さないことを目指してきた製造現場では、不良品のデータが圧倒的に少なく、データ不足のために高精度で不良品を見つけ出すAIモデルを作り出すのが困難な場合が少なくありません。現在では逆に良品を学習し、そこから大きく外れるものをはじくという手法を取るケースも多く見られます。ただ、その場合は精度がそれほど上がらないという状況もよく耳にします。
また、これらがうまくいったとして、例えば、自動検査における虚報率(良品だが不良品と判断し報告した率)を数%下げた場合、AI導入のコストに見合うようなビジネスインパクトをもたらすことができるでしょうか。対象商品や工程が、ボトルネックとなっているような重要なポイントであれば、リターンを得ることができるかもしれません。しかし、そうでない場合は「AIが使える」という領域ではあっても、「工場視点で効果が生み出せる」という領域ではないかもしれません。この「費用対効果」の面で折り合いを付けるのが難しいという点が、AI活用の1つの難しさになっているように見ています。
確かに学習データの用意やAIモデルの構築などの負担があっても「工数や作業人員数を下げる必要がある」という工程でAI活用を考えることが必要かもしれませんね。そこはもう一度考え直してみます。
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