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緒方洪庵の残した開封不可能な薬瓶の内容物を非破壊で解明:医療技術ニュース
大阪大学と高エネルギー加速器研究機構は、江戸時代後期に緒方洪庵が残した開栓できないガラス瓶を、ミュオンビームを用いて分析し、内容薬物を同定することに成功した。
大阪大学は2021年3月17日、開栓できないガラス瓶をミュオンビーム(ミュオン特性X線分析)を用いて分析し、内容薬物を同定することに成功したと発表した。高エネルギー加速器研究機構との共同研究による成果だ。
分析したガラス瓶は、大阪大学が所蔵する緒方洪庵の薬箱に保管されていたもののうち、内容物が白色粉末の薬瓶。蓋上部に「甘」という文字が書かれており、開栓はできない状態だ。
ミュオンビームは、打ち込むエネルギーを変えることで、任意の深さの元素を非破壊で分析できる。人工ミュオンビームを緒方洪庵の薬瓶に打ち込むと、内容物由来の水銀と塩素、瓶由来の鉛、シリコン、酸素のミュオン特性X線スペクトルが得られた。
ミュオンビームの測定と蛍光X線分析の結果から、薬瓶は厚さ3mmで、鉛カリガラスと呼ばれる鉛を含んだガラス製であることが判明。内容物については、ミュオンビーム測定結果と瓶に記された文字の薬史学的な考証結果から、当時「甘汞(かんこう)」と呼ばれた塩化水銀であることが分かった。
大阪大学では、今回の資料のように医療に関係する歴史的に貴重な実態物資料を「医療文化財」と定義し、研究してきた。今回の研究結果は、非破壊で物質内部を分析する手法として注目されているミュオンビームが、破壊的分析ができない文化財分析に応用できる可能性を示唆している。
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