東南アジアでも日本品質のトマトやいちごを高収量で生産できる「植物工場」とは:スマートアグリ(3/3 ページ)
アジアモンスーンPFSコンソーシアムが「アジアモンスーンモデル植物工場システム」を発表。野菜や果物の効率的な栽培で知られるオランダ式ハウス栽培施設が1ha当たり6億〜8億円かかるところを、今回開発した技術であれば1ha当たり2億円未満に抑えられる。トマトやいちご、パプリカなどの生産性や品質についても十分な成果が得られた。
従来のトマト苗は高温多湿地域のハウス栽培だと枯れてしまう
三菱ケミカルが開発したのは、高温多湿環境でのハウス栽培を安定的に行うためのトマト大苗育苗技術である。同社は人工光・閉鎖型苗生産装置「苗テラス」を開発、販売している。しかし、高温多湿地域でのトマトのハウス栽培では、通常の苗テラスで生産したトマト苗は暑さで枯れたり、実がつかなかったり、病害虫の影響を大きく受けるなどの課題があった。
これらの課題を解決するのが「より大きく育苗したトマト大苗を利用することだった」(三菱ケミカル インフラ・アグリマテリアルズ本部 ITファームプロジェクト マネジャーの山岸兼治氏)という。従来の苗テラスは、棚数が4段で光源に蛍光灯を用いていており、トマト大苗の育苗には適していない。そこで、棚数を3段にするとともに、光源にシチズン電子製のLEDを採用。これにより高品質なトマト大苗の育苗が可能になり、パナソニックのSmart 菜園’s クラウドによる環境制御を組み合わせることで、高温多湿環境でも高い生産性や品質を実現できるようになった。
シチズン電子は、苗テラス向けのLED向けに加えて、植物育成を促進する補光光源となるCOB(Chip on Board) LEDを開発した。同社のCOB LEDは、複数LED素子の高密度実装により、1灯で低Wから380Wの高出力までカバーできるとともに、光スペクトラムのチューニングも行えるなどの特徴がある。
植物育成の補光光源のLEDを用いる場合、赤と青の可視光成分が利用されることが多い。シチズン電子 事業企画部 事業企画課 主任の中澤義英氏は「作業者が植物育成の状態を確認する上では、赤と青の可視光成分では視認性が高いとはいえない。そこで、緑の可視光成分が入るようなチューニングを行い視認性を高めた」と説明する。
今後は、参加各社による要素技術の事業展開を進めつつ、新たなコンソーシアムの下、2021年度から3年間のプロジェクトで、システムとしての事業化と普及に向けた開発を継続する計画である。
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