水中環境をスマートフォンから確認可能にするIoTソリューション:製造業IoT
TeamViewerは2021年3月25日、水中調査を目的に同社製品を用いた導入事例や実証実験例に関する発表会を開催した。調査用機器や水中の状況をリアルタイムかつ遠隔地から確認できる。
IoT(モノのインターネット)ソリューションを提供するTeamViewerは2021年3月25日、水中調査を目的に同社製品を用いた導入事例や実証実験例に関する発表会を開催した。調査用機器や水中の状況をリアルタイムかつ遠隔地から確認できる。
携帯通信網で遠隔地にデータ転送
TeamViewerは2005年にドイツで創業した企業で、IoT基盤ソフトウェア「TeamViewer IoT」の提供などを通じて、個人、法人を問わずリモート接続に関するソリューションを展開する企業である。今回の発表ではTeamViewer IoTなどを、主に水中資源の「見える化」を実現する調査用途などで用いた事例を紹介した。
紹介した事例は2つある。1つは環境シミュレーション研究所による導入事例だ。
環境シミュレーション研究所は「環境情報配信事業」「デジタル海底地形図事業」「地理情報システム事業」の3事業を主軸に、海洋環境情報や水産資源の動向などのデータを提供している企業である。これらのデータ取得に活用している機器の1つがGPSデータロガーだ。GPSを通じて取得した航跡情報や、船に搭載した水深計や水温計、潮流計、魚群探知機などの機器を通じて漁海況情報をリアルタイムで収集する。これらのデータは、同研究所が独自に開発した携帯通信網を通じて遠隔地に転送できる。
ただ、従来は機器が故障した場合、あるいはデータ収集が正常に行えない場合に、実際に現地に同社作業員などを派遣して確認しなければならなかった。環境シミュレーション研究所の顧客は離島でGPSデータロガーを使用しているケースもあり、こうした場合に作業員の移動負担や出張費がかかる点が課題だった。
そこで導入したのがTeamViewer IoTである。GPSデータロガーのリモートターミナルを遠隔操作する仕組みを構築した。これによって、GPSデータロガーの導入環境に多い、狭帯域かつ回線が不安定な船上でもリモートサポートを提供可能になった。環境シミュレーション研究所社員の出張費を削減する効果が見込める。また、TeamViewer IoTは、エージェントソフトウェアをGPSデータロガーに接続するエッジサーバに導入すれば使えるので、余分な機器購入コストがかからないのも利点である。
環境シミュレーション研究所は日本財団や日本先端科学技術教育人材研究開発機構、リバネスによる共同事業、海底地形図作成プロジェクト「DeSET(海底探査技術開発プロジェクト)」にも参加しているが、ここでもGPSデータロガーとTeamViewer IoTを用いているという。
スマートフォンからも確認可能
もう1つの事例として紹介したのが、さくらインターネットによる水中環境の見える化に関する実証実験だ。
実験地に選んだのは東京都大田区にある洗足池(せんぞくいけ)である。水深は約1〜2m程度だが、水が不透明なため水面下の様子が把握しづらい。そこでさくらインターネットは、市販の魚群探知機を用いて455kHzの音波を池の底面約40m範囲に照射して、水中のリアルタイム可視化を行った。これによって、水中の池の構造や、泥や石といった堆積物の状況、底面にある水生生物の巣まで高精細に捉えることができた。3次元ライブ魚群探知機を使用することで、より高度な分析も行える。
加えて実証実験では、ライブ魚群探知機の映像をスマートフォンに導入可能なリモート接続ソリューション「TeamViewer」を通じて、遠隔地からもリアルタイムで確認できることを確かめた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあり、IT技術者が常駐していないフィールドでの新技術導入は難易度が高かったが、遠隔地からの状況確認を容易にすることが、この障壁を下げる効果をもたらす可能性がある。
TeamViewerジャパン ビジネス開発部長 小宮崇博氏は「水中、特に漁環境でのIoT適用は、漁獲時の魚の種類や時間、場所などを容易に記録できる。TeamViewerではこうしたトレーサビリティー確保を実現する情報プラットフォームの構築支援も行っている」と説明した。
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