水深1万1000mにも耐えられる海底地震計の開発に成功:地球上の全ての海域で観測可能に
海洋研究開発機構(JAMSTEC)と日本海洋事業は、小型・軽量化と運用効率の向上により、観測体制の拡充を容易にする「大規模展開型海底地震計」と、海溝軸付近の大水深海域での観測を目的に、セラミックス製の耐圧容器を従来型の海底地震計に適用した「超深海型海底地震計」を開発した。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)と日本海洋事業は2013年3月14日、地震研究の発展に寄与する2つの新たな海底地震計の開発に成功したことを発表した。
1つは、小型・軽量化と運用効率の向上により、観測体制の拡充を容易にする「大規模展開型海底地震計」(画像1)、もう1つは海溝軸付近の大水深海域での観測を目的に、セラミックス製の耐圧容器を従来型の海底地震計に適用して開発した「超深海型海底地震計」(画像2)だ。
大規模展開型海底地震計は、大量展開を可能とする次世代型の海底地震計として開発されたもの(特許出願中)。JAMSTECが運用に必要な周辺機器の新規開発と各機器および海底地震計の試験の実施・評価を行い、日本海洋事業が高分解能の記録装置の開発と海底地震計のシステム設計・製作を行った。従来品よりも小型のガラス球耐圧容器(外径約33cm、小型化により耐圧7000m相当)を適用して、耐圧容器外に装備されていた周辺機器(音響トランスポンダ、ラジオビーコン、フラッシャー)を内蔵することで、従来の約3分の1の重量(35kg)、約4分の1の専有面積(約0.4×0.4m)を実現し、小型化・軽量化に成功した。また、非接触電力伝送技術など、さまざまな新技術を採用することで、設置・回収、メンテナンスに要する時間と作業工程の効率化に成功している。研究船への搭載可能数の増加と運用の効率化により、これまでと同じ設備、人員、時間を用いて、4〜5倍の台数の海底地震計を使った観測が可能となり、従来よりも高分解能な海底下地殻構造の観測が行えるようになるという。
一方の超深海型海底地震計は、JAMSTECが京セラと共同開発してきた高圧に耐え得るセラミックス製の大型球型耐圧容器(特許出願中)を、従来型の海底地震計に適用し、水深6000mを超える海域にも設置できるようにしたもの。セラミックス製の耐圧容器は圧縮強度が高く、これまで海底設置型の観測機器に広く用いられてきたガラス製の耐圧容器(対水圧6000m相当)とほぼ同等のサイズ(外径約44cm)、重量(空中重量約21kg、浮力約25kg)で、1万1000m相当の水圧に耐えることができる。これにより、地球上の全ての海域で海底地震計による観測を行うことが可能になるという。
今回開発した2つの海底地震計を用いた観測を、文部科学省からの受託研究「東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の観測調査」ならびに統合国際深海掘削計画(IODP)の「東北地方太平洋沖地震調査掘削」に関連した構造調査の一環として実施。調査では、2012年12月10日から2013年1月18日にかけて、深海調査研究船「かいれい」によって日本海溝の海溝軸付近に設置(画像3)し、地震観測を行うとともに、地殻構造探査のために、かいれいのエアガンからの発振信号を収録した。その後、海底地震計の回収を行った結果、データが問題なく収録されていたことを確認できたという。取得したデータについては、今後、詳細な解析を行う予定だとする(画像4)。
画像3 海底地震計の設置位置。宮城県沖日本海溝の海溝軸付近、大規模展開型を深度約7000mの地点、超深海型を7000m以深の地点に設置。図中、黄色い◆が大規模展開型地震計の設置位置、白い◇が超深海型海底地震計の設置位置、赤い★は東北地方太平洋沖地震の震央である
画像4 調査観測結果の一例。日本海溝の海溝軸に設置されたJF2観測点で得られた2013年1月14日13時24分ごろに海溝軸付近で発生した地震の受振波形。初動であるP波の約9.8秒後に、海面で反射してきたP波が記録されている
JAMSTECは今後、セラミックス製耐圧容器を大規模展開型にも適用し、超深海対応の大規模展開型海底地震計の開発を行う方針。7000m以浅に低コストのガラス球、7000m以深にセラミックス球を用いた海底地震計を設置して、海溝軸周辺での緻密・高精度観測を行い、海溝型地震の発生メカニズムの解明に役立つデータの入手・解析を進めていきたい考えだ。
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