東海道新幹線を守る「地震防災システム」を強化、JR東海:技術開発と知見を生かした防災
JR東海は、東海道新幹線における「地震防災システム」の機能強化を発表。主に、直下型地震/連動型地震発生時の列車停止指令の早期化、地震防災システムのバックアップ強化を行うものだという。
先日(2012年4月14日)開通したばかりの「新東名高速道路(以下、新東名)」。サービスエリア(SA)にオープンした商業施設や電気自動車(EV)/プラグインハイブリッド車(PHV)向け充電インフラサービスの話題で持ち切りだが、その一方で「新東名の下に活断層が通っている。東海地震と連動する可能性がある!?」というニュースも一部報道で取り上げられている。
現在、東日本大震災クラスの巨大地震が、東海地域を含む太平洋沿岸の南海トラフ付近で発生する可能性があるとされている。政府も南海トラフ地震による被害想定を発表したり、対策に向けたワーキンググループを発足したりするなどの動きを見せている。どうしても新東名が通る東海地域に関しては、次なる大地震に対して敏感にならざるを得ない。
さて、ここで忘れてはならないのが、東海地域を横切るもう1つの交通インフラの存在だ。何も冒頭で紹介した新東名を始めとする道路網(高速/一般道)だけではない。そう、東海道線、東海道新幹線といった鉄道網である。
“東西の動脈”として、東海地域を横切る交通インフラは、未曽有の大地震に備えた対策が果たしてできているのだろうか。もしも最大級とされるマグニチュード9クラスの超巨大地震が発生したとしたら……。
以前、こうした防災に対する備えについて、地震・津波観測システムの話題を中心に紹介(関連記事)したが、本稿では、JR東海が2012年4月23日に発表した東海道新幹線における「地震防災システム」の機能強化策について、発表資料を基にその概要を紹介したい。今回の機能強化は、これまでの技術開発の成果と東日本大震災の知見が生かされているというが、果たしてどのようなものなのだろうか。
東海道新幹線を守る「地震防災システム」――その機能強化とは?
既設の同システムは、東海道新幹線の沿線における地震の揺れを直接捉え、決められた範囲で自動的に送電を停止して列車を緊急停止させる「沿線地震計(S波検知)」と、沿線から離れた場所に設置されている「遠方地震計(P波検知)」で地震の初期微動(P波)を検知し、早期に必要な範囲で自動的に送電を停止して列車に緊急停止指令を出す「東海道新幹線早期地震警報システム(通称:テラス)」で構成されている。また、2008年からは、気象庁の緊急地震速報をテラスと併用し、多重化する改善も行われている。
今回の機能強化は、地震時の安全性のさらなる向上を目的としたもので、直下型地震/連動型地震発生時の列車停止指令の早期化、地震防災システムのバックアップ強化を行うものだという。そして、この取り組みにより、同システムの情報を活用している在来線の地震対策の強化にもつながるとする(補足)。なお、工事は2012年5月から着工し、2013年7月に完了する予定で、総工事費は約3億6000万円だ。
まず、直下型地震に対する早期警報機能の強化について見てみよう。
直下型地震の場合、これまでは沿線地震計(S波検知)を用い、一定以上のS波(40ガル)を検出してから送電を停止して列車を緊急停止させていたが、これをP波から震度を推定するよう機能を強化。運転規制が必要な震度(4程度とされる)に達すると判明した段階で送電を停止して列車を緊急停止させる。これにより、従来の検知機能よりも1〜2秒短縮できるという。ここには、新幹線の走行時に発生する微振動と地震のP波を区別して誤検知を防止する機能と、P波から震度を推定する機能が用いられているとのことだ。
続いて、連動型地震に対する早期警報機能の強化について見てみよう。
この機能強化は、同社の遠方地震計および気象庁の緊急地震速報地震計を監視し、連動型地震の想定震源域内で一定規模以上の地震が発生した場合に、地震が連動することを見越して列車を緊急停止させるものだ。監視対象となる想定震源域(適用マグニチュード)は、南海トラフ沿いの東海・東南海・南海地震(マグニチュード7.0以上で適用)と、日本海溝沿いの東北地方太平洋沖地震(マグニチュード7.5以上で適用)である。
さらに、遠方地震計にS波検知機能をバックアップとして追加。これにより、P波が非常に小さく、東海道新幹線沿線に影響がないと判定した地震であっても、その後のS波で一定の揺れ(120ガル)を検知した場合に、送電を停止して列車を緊急停止させることができる。
こうしたシステムを実現する上で、そして災害時にこそ重要となるのが通信回線と電源の確保だ。今回の機能強化では、通信回線断線防止対策として、既設の通信回線の2重化に加え、衛星回線をバックアップ回線として活用する。また、長時間停電対策として、地震計の予備バッテリーの増備を行う。これにより、遠方地震計では従来4時間だったのが72時間に、沿線地震計では従来4時間だったのが24時間に強化される。
なお、これら機能強化は工事が完了した箇所から運用を開始するとしている。
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