【トラブル4】射出成形した製品が反ってしまった!! その原因と対策アプローチ:2代目設計屋の事件簿〜量産設計の現場から〜(4)(2/2 ページ)
量産樹脂製品設計の現場でよくあるトラブルを基に、その原因と解決アプローチについて解説する連載。第4回は、箱状の製品を射出成形した際に生じてしまった「反り」の問題について、そのメカニズムと対策について考える。
L字形状の変形を防ぐには?
このままの状態では、製品として“不良”となりますので、この変形を対策しなければなりません。金型の製作や成形時に温度を調整することでバランスをとるという方法もありますが、ここでは製品設計の視点で、L字形状の変形対策を考えてみることにします。
対策1:肉厚を調整する
外側の面に対して、内側の方が金型に当たる面積が小さいために、このような変形が起こるわけですから、製品の肉厚を調整するなどして、金型に接する面積の差を小さくし、温度差を抑えるというアプローチが考えられます(図6左)。厳密に同面積にすることは難しいかもしれませんが、極力差を小さくすることで今回のような変形を軽減させることが可能です。
対策2:変形防止のリブを設定する
変形に対して「リブ」を設定し、補強するというアプローチもあります(図6右)。補強リブは、製品強度を高めるためにもよく使用される一般的な手法であり、さまざまな樹脂製品で見ることができます。ただし、リブを設定すると製品の外観にヒケが出やすくなるため、設定には注意が必要です。
箱状の製品の反りを防止するには?
ここまで理解できれば、今回の相談内容である“箱状の製品で発生してしまった反り”の原因と対策についても想像が付くのではないでしょうか。
ご覧の通り、箱状の製品の四隅はL字形状をしていますので、四隅は先ほど説明したような温度差が生じやすくなり、それに伴って形状が変形してしまいます(図7)。四隅のそれぞれで起こった変形の結果、図1右で示した箱の四面が内側に反った成形品が出来上がってしまったのです。
この対策については既に解説した通りで、L字形状と同様に、肉厚を調整したり、補強リブを設けたりすることで、反りを防止することが可能です。
以上のように、肉厚の調整や補強リブなどを製品設計に反映することで、成形時の不良(今回の場合は“反り”)を軽減できます。もちろん、金型製作や成形を行う際にも反りや変形の対策は可能ですが、製品設計で全く対策がされてない製品を金型や成形だけで完全に対策できる保証はありません。このようなトラブルを未然に防ぐためにも、製品設計の段階で対策を施すことを強くオススメします。 (次回へ続く)
Profile
落合 孝明(おちあい たかあき)
1973年生まれ。2010年に株式会社モールドテック代表取締役に就任(2代目)。現在、本業の樹脂およびダイカスト金型設計を軸に、中小企業の連携による業務の拡大を模索中。「全日本製造業コマ大戦」の行司も務める。また、東日本大震災をうけ、製造業的復興支援プロジェクトを発足。「製造業だからできる支援」を微力ながら行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 【トラブル3】成形品に擦り傷が発生!! 抜き勾配の設定に欠かせない3つのルール
量産樹脂製品設計の現場でよくあるトラブルを基に、その原因と解決アプローチについて解説する連載。第3回は、「抜き勾配」に関する理解を深め、成形品の表面に擦り傷が生じてしまう問題の解決に取り組む。 - 【トラブル2】製品表面にエクボのようなへこみが! 射出成形の外観不良ヒケ対策
量産樹脂製品設計の現場でよくあるトラブルを基に、その原因と解決アプローチについて解説する連載。第2回は、成形品の表面にエクボのようなへこみが生じる「ヒケ」に関するトラブルとその対策アプローチについて解説する。ヒケ発生の影響を最小限に抑えるには!? まずは発生の仕組みから理解していこう。 - 【トラブル1】試作がそのまま使えない!? 3Dプリンタと量産金型の違い
量産樹脂製品設計の現場でよくあるトラブルを基に、その原因と解決アプローチについて解説する連載。第1回は、3Dプリンタで試作した製品を量産しようとした際、そのままでは金型に展開できず設計の見直しを余儀なくされた……というトラブルだ。問題の原因はどこか? その解決アプローチとは? - 金型を作りやすくする入れ子と冷却機構
今回は、入れ子を入れる理由に加えて、入れ子の設定と関連が深い金型冷却の機構について解説する。 - 良品を取り出すエジェクタ機構のテクニック
今回は製品を金型から取り外す「突き出し(エジェクタ)機構」について解説する。金型から良品を取り出すためには、製品仕様に合わせて最適な突き出し方法を選択することが必須だ。 - ランナー&ゲート形状のいろいろ
ロケートリングやスプルーブッシュの設定方法を確認してから、さまざまなランナーやゲート形状を見ていく。製品形状に合わせて、適切なランナー&ゲートを選定しよう。