不安定なIgM抗体の機能を維持したまま精製する簡便な手法を確立:医療技術ニュース
産業技術総合研究所は、多孔質セラミックス粒子を用いて、構造的に不安定なIgM抗体の機能を損なうことなく精製する手法を確立した。IgMを活用した抗体医薬品や感染症の診断薬などの開発が期待される。
産業技術総合研究所(産総研)は2021年2月9日、多孔質セラミックス粒子を用いて、構造的に不安定なIgM抗体の機能を損なうことなく精製する手法を確立したと発表した。日本特殊陶業-産総研ヘルスケア・マテリアル連携研究ラボとの共同研究による成果となる。
酸に不安定なIgMの活性を維持したまま精製するため、両者が共同開発したジルコニアを原料とする多孔質セラミック粒子のPZPsを活用した。PZPsは、10nmという抗体とほぼ同じ大きさの孔径を持つ多孔質粒子で、表面に修飾したリン酸化合物が抗体を特異的に認識する。結合したIgMは、抗体が変性しない中性条件のまま分離できるため、IgMを変性させずに精製できる。
実験では、pH7〜8のリン酸緩衝液を用いた遠心沈降により、抗体産生細胞の培養液からIgMを実用的な収率で精製できた。中性条件での抗体精製はセラミックス粒子を用いた技術でも可能だが、PZPsは多孔質化により比表面積がセラミックス粒子の13倍以上あるため、抗体の結合容量が向上し、高い収率が可能になった。IgMの含有量が高いマウスの腹水からは、96%以上という収率で精製IgMを得られた。
この手法を用いて4種類のIgMとIgGを精製したところ、溶出に用いるリン酸緩衝液の塩濃度を調整するだけで各抗体を精製できた。精製した抗体は、抗原特異性を維持しており、類似の構造を持つ抗原には反応しなかった。また、従来のIgM精製技術ではできなかった、κ鎖やλ鎖という軽鎖を含むIgMも精製可能だ。
医薬品用途では、がん細胞や微生物、ウイルスの表面に存在する糖鎖に親和性があるIgMの利活用が期待されている。しかし、従来の抗体精製は強酸を使用しており、酸に不安定なIgMの精製には適していなかった。また、中性条件下での抗体精製は、工程の複雑さや高いコストなどの問題があった。
今回開発した手法は、機能を維持したまま、加工に適した高純度のIgMを高い収率で精製できるため、IgMを活用した抗体医薬品や感染症の診断薬などの開発が期待される。
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