問題の解決策を見つけるための演繹法入門(その1):VUCA時代のエンジニアに求められるコンサルティング力(10)
VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。本連載のテーマは、そういった不確実な時代でもエンジニアの強みになるであろう「コンサルティング力」である。第10回は、提案の肝となる第4段階の「解決策の方向を決める」に必要な「演繹法」の基本的な考え方について解説する。
前回までは、コンサルティング力を身に付けるプロセスの第3段階「仮説を立てる/問題を見つけ出す」における帰納法の活用法を詳しく説明しました。今回からは、提案の肝ともなる第4段階の「解決策の方向を決める」に入っていきます。ここで必要になる方法論が「演繹法」です。その基本的な考え方を2回にわたって解説していきます。
⇒連載「VUCA時代のエンジニアに求められるコンサルティング力」バックナンバー
帰納法とは、多様な事実から導き出された問題を論理的にまとめ上げていく方法でした。「要は何か?」を「ロジックツリーを上に向かって収束・要約していく方法」と言ってもいいかもしれません。それに対して演繹法は、テーマを分解して詳細化していく方法です。こちらは「ロジックツリーを下に向けて発散・広げていく方法」と捉えてください。
演繹法の具体的な作業の手順は、以下のようになります。
- テーマを設定する
- そのテーマを分解して、詳細化していく
- その中から重要な要素を選択する
テーマとは「課題」のことです。例えば「マラソンの順位がなかなか上がらない」という課題をテーマとして設定してみましょう。
その課題の解決法を考えることが、「分解」の作業に当たります。発想はもちろん自由でいいのですが、いきなり「考えられる要素を自由に挙げなさい」といわれても戸惑ってしまう人も多いでしょう。要素を挙げていくポイントとなるのは、以下の4つです。
- MECE(モレなく、ダブりなく)を意識する
- 要素を「3つセット」で出す
- それぞれの要素の「順序」を意識する
- それぞれの要素を「単語」ではなく「文」で表現する
フレームワークを使って「3点セット」をひねり出す
「マラソンの順位がなかなか上がらない」というテーマを、例えば「筋力を上げる」「走る技術を習得する」「道具をよくする」という要素に分解してみましょう。これらに取り組めばマラソンの順位が上がる可能性がある、という要素です。
次に、上記の4つのポイントに照らし合わせて、これらの要素を検証してみましょう。まず、それぞれの要素にモレやダブりはないか。他にも要素があり得るという点でモレがある可能性はありますが、ダブりはありません。3つセットというポイントも満たしていますし、「筋力→技術→道具」と基本的な要素から応用的要素に順番に並んでいることも分かります。また、「筋力」「技術」「道具」といった単語ではなく、文章になっています。つまり、4つのポイントはほぼ満たしていると考えられます。
それぞれのポイントにはもちろん根拠があります。「モレなく、ダブりなく」は要素の粒をそろえるための基本的な考え方です。「3つセット」が必要なのは、一般に2つ目の要素までは比較的思い付きやすいのですが、そこで止まると常識的で平凡な内容で終わってしまう可能性があるためです。3つ目を絞り出してみると、新しいアイデアが生まれることが多々あります。「順序を意識する」のは、それによって3つ目の要素が出やすくなるからです。また、「単語ではなく文」にするのは、それぞれの要素を曖昧にしないためです。例えば「技術」だけでは、「技術を身につける」のか「技術偏重にならない」など、人によっていろいろな解釈が可能になってしまいます。
「3点セット」と「順序」は、世の中にあるさまざまなフレームワークから導き出せる場合が多いということも、ぜひ知っておいていただきたいと思います。例えば、マーケティング戦略を考える際には、「3C」というフレームワークがよく使われます。Company(自社)、Customer(顧客)、Competitor(競合)の頭文字をとったもので、「自分に近いところから遠いところ」という順に3つの要素が並んでいることが分かります。他にも、「大・中・小」(大きさ)、「過去・現在・未来」(時間)、「ヒト・モノ・カネ」(経営資源)、「川上・川中・川下」(バリューチェーン)など、フレームワークはいろいろあります。これらを活用して3点セットをひねり出してみましょう。
筆者プロフィール
アデコ株式会社 太田 剛
大手メーカーへ新卒入社し、エンジニアとして勤務後、2005年にエンジニア派遣事業を展開する株式会社VSNへ中途入社。エンジン、トランスミッション、エアーバッグ、カーオーディオ、ブレーキ、メーターなどの頭脳部分となる車載用マクロコンピュータの開発に従事後、エンジニア全体の組織の管理職としてエンジニアの組織化を推進。
その後、問題解決の育成プログラムの構築やコンサルティングサービスの促進を担当。2021年1月からグループ会社であるアデコ株式会社のアウトソーシング部門へ出向し、請負業務におけるコンサルティング視点での活動強化に携わる。
アデコグループジャパン https://www.adeccogroup.jp/
Modis VSN https://www.modis-vsn.jp/
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「VUCA時代のエンジニアに求められるコンサルティング力」バックナンバー
- 2段階の「洞察」によって問題の本質に迫る
VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。本連載のテーマは、そういった不確実な時代でもエンジニアの強みになるであろう「コンサルティング力」である。第9回は、「自分の経験から考える」「当事者に聞く」という2段階の「洞察」を行うことで問題の本質に迫り、「問題を見つけ出す」作業を完了させる。 - 情報を「整理」「要約」して本質を導き出す――リモートワークの生産性を題材に
VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。本連載のテーマは、そういった不確実な時代でもエンジニアの強みになるであろう「コンサルティング力」である。第8回は、リモートワークの生産性を題材に、帰納法を用いた「整理」と「要約」を実践してみる。 - 情報の整理は「3つの箱」を「4つの順序」で並べるところから始める
VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。本連載のテーマは、そういった不確実な時代でもエンジニアの強みになるであろう「コンサルティング力」である。第7回は、現場のエンジニアがコンサル力を身に付けるプロセスの第2段階に当たる「情報を整理する」についてもう少し詳しく解説する。 - コンサル力を鍛えるには全ての情報を「3つ」に整理し仮説は「2段階」で立てる
VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。本連載のテーマは、そういった不確実な時代でもエンジニアの強みになるであろう「コンサルティング力」である。第6回は、現場のエンジニアがコンサル力を身に付けるための6+1つのステップのうち、2番目の「情報を集める」と3番目の「仮説を立てる/問題を見つけ出す」について説明する。 - エンジニアがコンサル力を身に付けるための6+1つのステップ
VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。本連載のテーマは、そういった不確実な時代でもエンジニアの強みになるであろう「コンサルティング力」である。第5回は、現場のエンジニアがコンサル力を身に付けるための6+1つのステップのうち、0番目と1番目について説明する。