“永遠に不確実”なニューノーマル、未知の世界で何が起こるのか:ポストコロナの製造業IT戦略(3)(1/2 ページ)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらした「withコロナ」のニューノーマル時代において、製造業にどのような変革が必要となるのかを考える本連載。第3回となる今回は、「ニューノーマル」として描かれるのがどういう世界で、企業としてどう備えるべきかについて解説します。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらした「withコロナ」のニューノーマル時代において、製造業にどのような変革が必要となるのかを考える本連載。
前回は、パンデミックや災害などの「危機」への対応について、「短期、中期、長期」の3つのフェーズで考える必要があることをお伝えしました。今回はその中で、「長期対応」に相当するフェーズ3「ニューノーマル(永遠に不確実なノーマル)」がどのような世界になるかについて解説します。
短期的な対応、中長期的な対応
さて、前回も説明しましたが、長期対応となる「ニューノーマル」について説明する前に対比として、素早い対応が必要になる初期対応「ザ・ナウ」の例をあらためて紹介しておきます。
米国素材製造業のA社は、新型コロナウイルス以前はクラウドコンピューティングやオンライン会議に積極的ではありませんでした。しかし、米国だけではなく、システム開発を担当するインドもロックダウンが続き、どこでも同じように業務が遂行できる仕組みが必要になっていました。全てのメンバーが接続できるキャパシティーを確保するためにIT投資の優先順位を変更し、オンライン会議が可能なコラボレーションツールの導入を開始し、業務の継続性を確保しました。さらに、オンプレミス環境のシステムをクラウド化するプロジェクトも開始しているといいます。
「ザ・ナウ」を含む短期の取り組みとしては、企業としてコストやプロジェクトの優先順位を再調整して、優先度を変更する柔軟性も必要です。米国の不動産コミュニティーを管理するE社は、もともとコミュニティー内で100店舗のレストランに対してPOSシステムをアップグレードする計画でしたが、これを変更しデジタルエクスペリエンスを強化するプロジェクトに切り替えました。具体的には、コロナ禍で顧客が物理的に来店することが難しくなるため、AR(拡張現実)を活用したバーチャルツアーを提供できるようにしたといいます。実際の店舗に来なくても間接的な経験ができる技術への取り組みを進めています。
コロナ禍によって見知らぬ世界へ
それではあらためて、中長期を対象とした話に戻りましょう。コロナ禍により、今までは考えられなかったことや、現実的ではないと考えていたことが、新たな変化のモメンタムにより、現実的なものとなりつつあります。これからの世界がどのように変化していくのかは、誰にも想像がつかないことでしょう。
「コロナ前」に描かれた世界では、在宅勤務については働き方改革などでさまざまな取り組みはあるものの「本格的な在宅勤務が普及するのは20年後くらい」だと思われていました。しかし、コロナ禍で緊急対応が進んだことで「実は在宅勤務がすぐにでも可能である」ということが立証できてしまいました。欧米の特にIT業界では在宅でのリモート作業は数年前から可能としていた企業が数多くありましたが、今回のコロナ禍によって非IT分野においても在宅勤務がベースになった企業が大きく増えています。
この在宅勤務の普及だけで、今後の社会に考えられないほどの大きな影響を及ぼすはずです。例えば、都心部の数千億円の高層オフィスビルはこれからどうなるのでしょうか。「果たして本当に必要なものか」という議論が巻き起こるのは間違いありません。
コロナ禍以前の光景を思い浮かべてみると、毎朝ラッシュアワーに満員電車でたくさんの人々が乗り、都心のオフィス街には毎日大勢の人が集い、そして毎晩また混雑した電車で帰っていくというのが日常の風景でした。そのため、オフィスの周辺にはレストラン、居酒屋、夜の街も集積していました。都心のレストランはオフィスビル内にある場合も多く、オフィスで仕事している人々がいるからこそ存在しているわけです。しかし、もはやオフィスビルは企業のステータスを示すだけのために存在できなくなることは見えています。その意味では、今回のコロナ禍は都心の機能や形態を根本的に変えてしまうことになるのかもしれません。
ちなみに、日本における都市化率は国土交通白書によると2020年には69%となり、グローバルに見て高いといえるでしょう。しかしながら、在宅勤務制度の普及は都市化の傾向に反する流れを作る可能性もあります。実際、2020年後半には東京都からの転出者が転入者を上回ることになっています。
在宅勤務が普及したとしても、時には会社へ出社する必要があるでしょう。しかし、出社した際に座るのは、これまでの自分用の固定デスクではなく共有デスクや移動机となることで、空いている席や予約して利用する形になると想像できます。高層ビルのオフィスの大きい窓ガラスから美しい景色を横目に仕事するのは、これまで成功のシンボルのように思われたかもしれませんが、オフィスの役割も変わり、その楽しみもなくなるかもしれません。
また、スーツなど見栄えに関するビジネス用品に対する需要も大幅減ることになるでしょう。衣料品の需要も大きく変わると見られ、衣料品メーカーは工夫する必要があるでしょう。
ライフスタイルや業務内容が全般的に変化する
変化があるのは働く環境だけにとどまりません。例えば、映画館やスポーツ施設など、在宅勤務とは直接関係ないように思われるものも影響を受けることが予測できます。
在宅時間の増加により、一層普及した映画やドラマなどのネット配信サービスのような新しいエンターテインメントが定着しました。5Gのような高速通信インフラが普及することでいつまで今のような形態で人々が映画というコンテンツを楽しみ続けるかは分かりません。これまでは大型のスクリーンや立体音響、ドルビーサウンドなども映画を見に行くことの魅力や動機でしたが、家庭の大型テレビモニターや、ハイレゾリューションオーディオなどにより、映画館で見るのに近い体験をより手軽に味わえるようになってきています。
オフィスと同様に、こうした映画館や百貨店など、これまで都心部の重要なコア施設の変化も、周辺の店舗環境にも大きな影響を与えるでしょう。これらの変化は、コロナ禍による一過性のものではないことは明白です。最新の技術を利用することを知ってしまった社会は、きっとこの災厄が去ったとしても元には戻らないでしょう。
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