量子アニーリングの前後処理を自動化するサービス、フィックスターズが無償提供:量子コンピュータ
フィックスターズは2021年2月1日、量子アニーリングマシンごとに異なる仕様や制約条件に合わせてアプリケーションコードを開発できるクラウドサービス「Fixstars Amplify」をリリースしたと発表した。メーカーごとに異なるマシンの仕様に合わせて、各マシンに最適化する処理などを自動的に実行する。
フィックスターズは2021年2月1日、量子アニーリングマシンごとに異なる仕様や制約条件に合わせてアプリケーションコードを開発できるクラウドサービス「Fixstars Amplify」をリリースしたと発表した。メーカーごとに異なるマシンの仕様に合わせて、各マシンに最適化する処理を自動的に実行する。フィックスターズの量子アニーリングマシン「Fixstars Amplify AE」で用いる場合は無償で提供する。開発後に共有サーバで運用する場合の料金は1システム当たり約10万円から、専有サーバの場合は1台当たり約100万円となっている。
メーカーごとに異なるマシンの仕様
Fixstars Amplifyは量子アニーリングマシン用のアプリケーションを開発し、マシン上で手軽に動作させるためのインタフェースを提供するクラウドサービスである。
量子アニーリングマシンは従来のノイマン型コンピュータと比較して、組み合わせ最適化問題の解決を得意とする。組み合わせ最適化問題は、多数の選択肢の中から特定の価値を最大化し得る変数の組み合わせを求めるというもの。実社会では荷物の配送計画や人員配置計画の策定、半導体の配置配線といった分野での応用が期待されている。
現在、東芝や富士通、日立製作所、D-Wave Systems、そしてフィックスターズなどの企業が量子アニーリングマシンの開発を進めており、マシンの機能を外部企業に開放するサービスも開始している。
ただ、実際に量子アニーリングマシンを利用するに当たっては、現時点ではユーザーにとって多くの課題が残されたままだとフィックスターズ 代表取締役社長の三木聡氏は指摘する。
「まず、マシンに解かせる組み合わせ最適化問題に対して前処理を施す必要があるが、この工程が複雑だ。メーカーごとに仕様が異なるので、使用するマシンに合わせた処理を行わなければならない。また、次世代機が発売されると、それに合わせてアプリケーションを再設計する必要がある」(三木氏)
マシンに合わせた最適化処理を自動で実行
Fixstars Amplifyはこうした課題を解決するために開発された。ユーザーは、アプリケーション開発用の「Amplify SDK」をPCにインストールするだけで、すぐに開発が可能になる。
通常のアプリケーション開発では、マシンのAPI仕様などに合わせて物理モデルをデータ化(課題の定式化)した上で、論理モデルに変換。その後、マシンの仕様や制約を考慮した物理モデルへと再変換するといった工程が必要だ。その上で、マシンにデータを入力してマシンを実行することになる。
一方、Amplify SDKで開発する場合、課題の定式化後の論理モデル、物理モデルへの変換や、マシンへのデータ入力といった作業が自動化される。モデルの変換作業も各マシンに合わせて最適な形で処理されるので、アプリケーションのコード行数は通常の開発時と比べて大きく減る。マシンでのアプリケーション実行結果に対しては逆変換を行い、ユーザーにとって結果の解釈が容易な形式で返す。
一例として三木氏は、数字パズルである「数独」を量子アニーリングマシンで解くためのアプリケーションを開発した事例を挙げる。Amplify SDKを使わずに開発した場合はコード数は200行に達したが、使用した場合は56行で済んだという。
「当社はこれまで15年かけてソフトウェアの高速化に取り組んできた。そのノウハウが、Amplify SDKにはすべて詰まっている。マシンの性能を引き出すためのライブラリも充実している。また、量子アニーリングマシン用のアプリケーション開発初学者でも扱いやすいよう直感的なインタフェースを採用しており、最適化問題を自由に作成、操作できる」(三木氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 量子コンピューティングは製造業でも活用進む、その可能性と現実
次世代のコンピューティング技術として注目を集める「量子コンピュータ」。製造業にとっての量子コンピュータの可能性について、ザイナス イノベーション事業部 部長で量子計算コンサルタントの畔上文昭氏に、製造業での量子コンピューティング技術の活用動向と現実について話を聞いた。 - 量子アニーリング提唱者の西森氏が語る量子コンピューティングの現在
2020年11月16〜27日にオンラインで開催された「第30回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2020 Online)」において、主催者セミナーとして東京工業大学 科学技術創成研究院 特任教授の西森秀稔氏が登壇。「量子コンピュータ研究開発の現状と展望」をテーマに講演を行った。本稿ではその内容を紹介する。 - 製造・物流の課題にAIで挑むABEJA、量子アニーリングにも着手
AI(人工知能)ベンチャーのABEJAは2019年3月5日、日立物流と共同で危険運転自動検知システムのAIを開発したことや、量子アニーリングマシン向けのソフトウェアの開発に取り組むことなどを発表した。 - 製造現場で量子アニーリングを使うのに必要な“遊び心”と“親心”
少し違いますが、ジョブズとウォズニアックの関係性でしょうか。 - 量子コンピュータって実際のところ何? NECもアニーリングに注力
NECは2019年1月16日、報道陣を対象として量子コンピュータに関する勉強会を開催し、同社が注力する超伝導パラメトロン素子を活用した量子アニーリングマシンの特徴と優位性を訴求した。同社は同マシンについて2023年の実用化を目指す方針だ。 - 東大が量子技術の社会実装に向け協議会設立、トヨタや日立など製造業も参画
東京大学は、量子コンピューティングをはじめとする量子技術の社会実装を目指す「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII協議会)」を設立した。同協議会には、産業界から、JSR、DIC、東芝、トヨタ自動車、日本IBM、日立製作所、みずほフィナンシャルグループ、三菱ケミカル、三菱UFJフィナンシャル・グループの9社が参加する。