ドローンでカキ養殖場の水中環境を可視化、ローカル5G通信を用いた実証実験開始:製造業IoT
レイヤーズ・コンサルティングは2021年1月27日、カキの海面養殖場における海中の状況をローカル5Gネットワークに接続した水中ドローンで可視化する実証実験について発表。ドローンに搭載したセンサーで酸素不足が生じた養殖場内の水域を素早く把握。カキの生産数低下につながる効果が期待される。実験期間は2021年1月25日週から同年2月8日週までを予定。
レイヤーズ・コンサルティングは2021年1月27日、カキの海面養殖場における水中の状況を、ローカル5Gネットワーク(Sub6、スタンドアロン方式)に接続した水中ドローンで可視化する実証実験について発表した。ドローンに搭載したセンサーなどで、酸素不足が生じた養殖場内の水域を素早く把握することで、カキの生産数低下を抑制する対策の実行につながる可能性がある。
実験における5Gネットワーク構築などを目的に、NTTドコモや東京大学、NECネッツエスアイがコンソーシアムを組織して参加する。
水中ドローンで酸素不足の水域を迅速に特定
今回、実証実験を実施するのは広島県江田島市にあるカキ養殖場だ。使用する水中ドローンの台数は3台。ドローンは養殖場の船上に設置した5Gルーターと有線で接続され、水中を探索。搭載したカメラやセンサーで取得した水中の映像や環境データを、陸上のローカル5G基地局へとリアルタイムで送信する。
カキを育成するには、海中に含まれる酸素濃度や栄養量などを生育に適した状態に保つ必要がある。また、カキの殻にはフジツボや海藻などが付着するが、これらは生育を阻害する要因となるので、除去する作業が欠かせない。このためカキ養殖場では定期的に潜水士が海中状況の確認などを行っていたが、この確認作業を水中ドローンで代替する。
ドローンに搭載した酸素濃度計などの各種センサーで、水温や塩分濃度、溶存酸素量(水中に含まれている酸素量)を測定する。これらの海中環境データを基に、溶存酸素量が不足している水域を可視化した「貧酸素水塊分布図」を作成。溶存酸素量の不足はカキが斃(へい)死する主原因となるが、こうした現象が発生した場合に、発生場所を迅速に特定できる。加えて、ドローンに搭載したカメラを通じて、高精細の映像をリアルタイムに確認できるので、必要な対策を迅速に実行できるようになる。
なお、実験参加団体の1つである東京大学 総長特任補佐の中尾彰宏氏は「水中ドローンから基地局へのアップロード時通信速度は実測で200Mbpsを実現している。一般的なキャリア5G通信では50Mbps程度の性能だが、今回使用するローカル5G通信はカスタマイズを施して、高帯域化を実現した」と語る。
今回の実験では、ローカル5G通信の通信品質の評価や受信時電力の測定を行う予定。この他、実験エリア内で通信キャリアによる5Gサービスが開始したケースを想定し、キャリア5Gとローカル5Gの同一環境下での共存に問題が生じないかを検討する。
ローカル5Gを採用した理由について、実験の参加団体の1つである東京大学 総長特任補佐の中尾彰宏氏は、「ローカル5Gは高信頼性や、耐障害性などを持つという長所がある。また、そもそも5G通信自体が大容量かつ低遅延の通信に強みを持っており、水中ドローンを遠隔操作する今回の実験に適している」と語った。
実験期間は2021年1月25日週から同年2月8日週までを予定。
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