教師データは深層学習の10分の1、スパースモデリング活用の外観検査AIキット:製造現場向けAI技術
HACARUS(ハカルス)は2021年1月7日、AI技術の一分野であるスパースモデリング技術を活用した外観検査AIスターターキット「SPECTRO GO」の提供を開始した。同技術はディープラーニングと比較すると、より少ない画像数で高精度のAIモデルを作成できるという強みがある。
HACARUS(ハカルス)は2021年1月7日、AI(人工知能)技術の一分野であるスパースモデリング技術を活用した外観検査AIスターターキット「SPECTRO GO」を提供開始した。同技術はディープラーニングと比較すると、少ない教師データで高精度のAIモデルを作成できるという強みがある。提供価格は100万円(税別)。
congatecの「Qseven」を採用
SPECTRO GOはハカルスが開発した外観検査AI「SPECTRO」のエントリーモデルとして開発されたキットだ。AIエンジニアがいない企業でも、AIソリューションの試験導入を手軽に行い、SPECTROの機能性やメリットを体験できる内容になっているという。
キットにはSPECTROを実行するためのボックス PCの他、Baslerの外観検査用カメラやレンズ、カメラスタンドやスタンドに付けるLEDライト、撮影用マットが含まれている。ボックス PCはドイツのCPUボードメーカーであるcongatecの「Qseven」を採用した。CPUはIntelの「Pentium N4200」を使用。製造機械への組み込み用外観検査アルゴリズム「SPECTRO CORE」の評価ライセンス6カ月分も付属する。
教師データが深層学習の“1000分の1”で済む場合も
昨今、生産ラインなどで不良品の外観検査にAI活用を試みる事例が増えている。これらの事例では、ディープラーニングを用いたAIモデルを用いるケースも少なくない。しかし、ディープラーニングで十分な認識精度を実現するためには大量の教師データが必要となる。外観検査の場合は不良品画像を大量に収集する必要があるが、一般的に、正常な製品と比べると不良品は発生頻度が著しく低いため、そもそも収集可能な画像が少ないという問題があった。
また、ハカルスの担当者は「ディープラーニングの学習は時間がかかるため、クラウドのリソースを用いて学習させるケースが多い。しかし、製造業の現場ではセキュリティへの懸念からクラウドにデータを上げづらいという声も多い」と指摘する。この他、ディープラーニングは多くの場合、計算処理にGPUを使用するため設備投資費がかさみやすく、消費電力が多いことからコスト高になりやすいという問題もある。
これに対してスパースモデリング技術は、ディープラーニングと比較するとAIモデル制作に必要な教師データが少なくて済む点が特徴だ。具体的には「ディープラーニングの10分の1程度の画像量で済む。当社が過去に手掛けたソーラーパネルの画像検査では10分の1以下のデータ量で、ディープラーニングよりも高精度かつ高速での検査を実現したケースもある。場合によっては100分の1、1000分の1のデータ量でも高精度の分析が可能だ」(同担当者)という。
なお、ハカルスはスパースモデリングの技術開発に特化しているわけではなく「当社は、顧客の導入領域に応じて特徴量を設計し、問題やデータの特性に合わせて最適なアルゴリズムを選択できるだけのドメイン知識を含めて技術力と知見を有している点を強みとしている」(同担当者)という。
スパースモデリング技術の可能性について、ハカルスの担当者は「IoT(モノのインターネット)アプリケーションや5G通信のさらなる普及が見込まれる中で、GPUを使わずに済むほど計算量の“軽い”スパースモデリングには多大な可能性がある。例えば、エッジデバイスに搭載した場合、サーバシステムへのデータ転送量が大幅に削減される効果が期待できる」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 世界を変えるAI技術「ディープラーニング」が製造業にもたらすインパクト
人工知能やディープラーニングといった言葉が注目を集めていますが、それはITの世界だけにとどまるものではなく、製造業においても導入・検討されています。製造業にとって人工知能やディープラーニングがどのようなインパクトをもたらすか、解説します。 - 鍵を握るのはインフラ事業分野、東芝が持つAI技術ポートフォリオの“強み”とは
認識精度などの点で「世界トップレベル」のAI技術を多数保有する東芝。これらのAI技術ポートフォリオを、具体的にどのように事業に生かすのか。東芝執行役員の堀修氏と、東芝 研究開発センター 知能化システム研究所 所長の西浦正英氏に話を聞いた。 - 「現場で使えるAI」、三井化学はどうやって実現したのか
製造業から注目を集めるAIだが、その導入が進展しているかと言えば、必ずしもそうとはいえない。PoCの段階から、実際に現場で使えるものにするのに大きな壁があるというのが実情だろう。三井化学は、「現場で使えるAI」という観点で取り組みを進めており、製造現場の外観検査を含めてさまざまな事例が生まれている。この取り組みを支えているのがMathWorksの技術計算ソフトウェア「MATLAB」である。 - “人をお手本にするAI”は製造現場に何をもたらすのか
協働ロボットなど機械が人と共に働く場面が増える中で、円滑に人と協調する能力が機械にも求められるようになっている。これらの要望に応えるため、三菱電機では「人と協調するAI」を開発した。同技術により得られる価値や狙いについて、開発陣に話を聞いた。 - CPUだけでリアルタイム群集計測を実現、東芝が従来比4倍性能の深層学習技術
東芝は2020年6月12日、CPU上でカメラ映像を解析して人数や密集度合いを計測できる、新しい手法のディープラーニング技術の開発を発表した。GPUと比較すると非力なプロセッサであるCPUなどのデバイス上で、高速かつ高精度にリアルタイムで映像解析を行える。 - 技術者知見を学習する不良原因解析AIを東芝が開発、自社半導体工場へ導入
東芝は2020年12月10日、現場技術者の知見を加えることで半導体工場や化学プラントなど変数が多項目に及ぶ工場において、不良原因解析を容易化するAIを開発したと発表した。同技術は、機械学習分野における最大級の国際会議の1つである「NeurIPS 2020」に採択されている。