「見学できるスマートファクトリー」を福島県に建設、Team Cross FAの狙いとは:FAインタビュー(2/2 ページ)
2020年12月3日、Team Cross FAの幹事企業であるロボコム・アンド・エフエイコムが福島県南相馬市に、省人化や省エネルギー化を実現する仕組みを備えたスマートファクトリーを建設中だ。同工場は希望者向けに場内見学を可能な範囲で受け付けている。Team Cross FAの天野眞也氏に建設の狙いなどを聞いた。
「本当のスマートファクトリー」を体験できる南相馬工場
MONOist 南相馬工場の概要と建設の狙いを教えてください。
天野氏 敷地面積は約3万2666m2で、加工工場や組み立て工場の他、ショールーム、研修センターなどを建設予定だ。完成時期は2021年5月下旬となる見込み。工場の事業としては金属/精密加工の受託生産の他に、ロボットシステムの量産、そしてグローバルエンジニアの育成を行う。3Dプリンタを用いた試作品製造なども請け負える。研修センターでは海外エンジニアの他、東京大学などTeam Cross FAと関係の深い大学のインターンを受け入れる予定だ。
金属/精密加工ラインを構成する各生産機器にはセンシング機器が搭載されており、稼働状況はもちろん、素材の投入状況や生産量などを一元的にシステム上で確認可能だ。こうした取得情報を基に予測を行うシミュレーションソフトウェアや、過去の設計図面を簡単に調べられる検索エンジンなども開発している。
なお、SMALABO TOKYOの奥には「デジタルルーム」を用意しており、南相馬工場の稼働データをリアルタイムで確認できるようにする計画だ。従来、SMALABO TOKYOではロボットなどのハードウェアにとどまらない、DXの“デジタル要素”を十分伝えきれていなかったが、これを解決する。
研究所の従業員を入れると全体で30〜40人程度が勤務する予定だが、工場内ではAGVによる自動化を進めることで、設備を動かす担当者自体はほんの数人になる。
また、工場では省エネルギー化と創エネルギー化にも取り組んでいる。工場の屋根には、太陽光パネルを配置する予定だ。自然エネルギーのみで夜間電力消費を賄うことは難しいが、今後改善していきたい。生産した製品や部品について、それぞれどのくらい電力を消費したかを算出するシステムも導入する。将来のスマートファクトリーはデジタル化だけでなく、化石燃料と手を切って、自然エネルギーを積極的に活用する必要がある。省エネ化、創エネ化はモノづくりにおける次世代のテーマだ。
MONOist 具体的に何を見学できるのでしょうか。
天野氏 実際に稼働している生産ラインやAGVを見学できる他、取得したデータ群や生産計画のシミュレーションも見られる。もちろん、依頼元企業とNDA(秘密保持契約)を締結している場合は、機密に触れない範囲での見学ということにはなる。
年間で1〜2万人程度の見学者数を見込む。南相馬市は東京からのアクセスが良い。羽田や成田空港からも訪れやすいので、海外の見学者も来場しやすいと考えている。
南相馬市を“モノづくりの聖地”に
MONOist 建設先として南相馬市を選んだ理由は何ですか。
天野氏 南相馬市には国が建設したロボット開発拠点「福島ロボットテストフィールド」があり、製造業におけるロボットの未来を感じやすい。将来的には、この地にIT業界における米国シリコンバレーのような、“モノづくりの聖地”を作りたいという思いがある。
また、Team Cross FAの幹事企業で1番規模の大きいオフィス・エフエイコムの本拠点が栃木県に、2番目に大きい日本サポートシステムが茨城県にあり、隣接する土地だったので利便性が高かったというのも理由だ。
MONOist 生産ラインはどの程度の規模ですか。
天野氏 初年度では15億円規模の生産を計画している。適宜、設備増設を行って生産量を向上させていく予定だが、増設可能な土地が多くあるので、売り上げは一気に伸ばしていけるだろう。
2021年2月くらいには実用化可能なシミュレーション用ソフトウェアなどを完成させる計画だ。
DXのゴールは「24時間稼働する全自動化工場」ではない
MONOist 国内の製造業は、DXに対してどのように取り組む姿勢が求められているのでしょうか。
天野氏 まずはカンコツでやっていた領域の言語化だ。産業用ロボットにネジ留めをさせるとして、締め具合を「しっかり」と曖昧に指示することはできない。それまで自然に行っていた業務を振り返り、言語化、定量化することが自動化を推進する第一歩だ。
また、工場設備から収集したデータをフィードバックする仕組みづくりも大事だ。工場のデジタルツインを作成し、どこかの工程でアクシデントが発生した場合の生産量予測の変動をすぐに把握できるようにする。
スマートファクトリーといっても、私たちは24時間止まらない全自動化工場を提案したいわけではない。顧客が市場で勝てるような生産工場を提案することが第一だ。顧客の製品やサービスをいかに市場にしっかりと届けるか、製品にいかに付加価値を与えられるかを考えている。ロボットは使う必要があれば使えばいいし、必要なければ使わなければいい。製造業が成長するためのパートナーとしての立ち位置を目指す。
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