米国はバイデン政権へ移行、医療機器のイノベーション支援策はどうなるのか:海外医療技術トレンド(67)(3/3 ページ)
米国はトランプ政権から新たに大統領に就任するジョー・バイデン氏の次期政権に移行することとなった。医療機器のイノベーション支援策はどのような形で引き継がれるのだろうか。
De Novo分類申請を補完するSTeP関連ガイダンスを整備・公表
さらにFDAは、2021年1月6日、「医療機器向けのより安全な技術プログラム(STeP)- 業界および食品医薬品局スタッフ向けガイダンス」最終版を発行した(関連情報)。
STeP(Safer Technologies Program for Medical Devices)は、画期的機器プログラムの適用対象製品よりも、命に別条がない、または相当回復が可能なレベルの状態において、安全上のベネフィットを有する医療機器およびコンビネーション製品を対象とした補完的プログラムである。今回公表されたSTeP向けガイダンスは、市販前承認(PMA)やDe Novo市販許可、510(k)市販前通知申請といった既定の基準を維持しながら、既存製品で画期的機器プログラムの基準全てを満たさないものについて、大幅に改善する医療機器およびコンビネーション製品の開発者を追加的に支援することを目的としたものであり、以下のような章立てになっている。
- I.イントロダクション
- II.背景
- III.プログラムの原則
- A.インタラクティブでタイムリーなコミュニケーション
- B.レビューチームの支援
- C.規制当局への提出のレビュー
- D.ベネフィット-リスク評価とデータ収集の市販前/市販後のバランス
- E.効率的で柔軟性のある臨床研究デザイン
- F.PMA提出向け製造に関する考慮事項
- IV.STeP導入およびレビュープロセスの要因
- A.一般的な適格基準の要因
- B.特別な適格基準の要因
- C.特別な適格基準の要因を評価するための考慮事項
- (1)第1の要因
- (2)第2の要因
- D.STeP導入レビューにおける追加的考慮事項
- (1)規制のパスウェイ
- (2)STeP導入要求向けのタイムフレーム
- (3)同様に期待される安全性のベネフィット向けの複数の機器
- E.STePおよびFDAレビューにおける包括要求の提出
- F.プログラム包括後のSTePからの取り下げおよび欠格
- V.STePにおける機器開発に関するフィードバックのメカニズム
- A.素早い議論
- B.データ構築モデル(DDP)
- C.STeP機器向けのその他の事前申請
- D.規制状況の更新
FDAとしては、特定の疾患や状態に対する既存の治療および診断オプションの安全性向上に向けて、医療機器単体だけでなくそれらのコンビネーション製品の開発促進を狙っている。
HIPAAプライバシー規則改正でも注目される2021年
バイデン−ハリス政権移行チームは、保健福祉省(HHS)の次期長官として、カリフォルニア州司法長官のザビエル・ベセラ氏を起用することを公表した(関連情報)。
本連載第64回で、米国のHIPAA規則改正動向を取り上げたが、保健福祉省傘下の公民権室(OCR)は、2020年12月10日、HIPAAプライバシー規則改正草案を公表している(関連情報)。改正草案では、電子健康記録(Electronic Health Record)や個人健康アプリケーション(Personal Health Application)の定義を明確化するとともに、以下のような要点を挙げている。
- 個人が自分自身の保健情報(電子情報を含む)にアクセスする権利を強化する
- 個人のケア調整とケースマネジメントのための情報共有を向上させる
- 緊急事態または健康の危機を経験する個人のケアにおける家族および介護者の関与拡大を促進する
- オピオイド、COVID-19緊急事態または脅威のある環境下における情報開示に関わる柔軟性を強化する
- 個人の保健情報のプライバシー権益を継続的に保護する一方、HIPAAの適用対象となる医療提供者および医療保険者の管理上の負荷を低減する
今回のHIPAAプライバシー規則改正は、米国のみならず、世界各国・地域における保健医療分野の個人情報保護制度やイノベーション活動に影響が及ぶ可能性が大きい。次期バイデン政権の下で、保健福祉省がどのようなかじ取り役を担うのかが注目される。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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