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3Dスキャナー活用で設計力の向上、設計者の“働き方改革”を実現するデジファブ技術を設計業務でどう生かす?(8)(2/2 ページ)

3Dプリンタや3Dスキャナー、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。第8回は、設計力/現場力の向上や設計者の働き方改革の実現に向けた“3Dスキャナー活用”について詳しく解説する。

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3Dスキャナーが苦手なことや必要な作業もきちんと理解しておこう

 とても便利で優れた3Dスキャナーですが、“万能の機器”ではありません。何でも簡単に3Dスキャンして3Dデータ化できるわけではないのです。3Dスキャナーは一般的に光やレーザーの反射や歪みなどを利用した三角測量によって表面形状を計測しているので、穴の奥や入り組んだ形状を取得することが苦手です。

 X線CTスキャナーを使用すれば内部形状を測定できますが、1億円を超える高額な機器ですし、測定できる材料や大きさも限られます。3Dスキャナーであれば測定するサイズや精度にもよりますが、数百万円程度で購入できます。3Dプリンタと同様に安いモノだと数万円で買えるものもありますが、工業製品を3Dスキャンするのであれば、数百万〜1000万円程度のものが必要でしょう。

3Dスキャナーで取得できなかった箇所
図4 3Dスキャナーで取得できなかった箇所(灰色の部分は取得できている箇所) [クリックで拡大]

 そして、透明や黒色、光沢のある素材など、光を透過したり、吸収したり、乱反射したりするようなものの計測は基本的に苦手です。対象物に白い粉などを吹きかけて計測したり、赤外線や複数本のレーザーを同時に当てて計測できる装置を利用したりなど対応策もありますが、それでも全ての形状を完璧にデジタルデータ化することができない場合も多くあります。

 うまく取得できなかった部分は専用ソフトウェアを使用して編集を行います。3Dスキャンしたデータは、必ずといっていいほど編集/修正作業が必要です。“3Dスキャン=3D CADデータ”ではありません。よく勘違いされるのですが、3Dスキャンしたデータは、点群でポリゴンデータ(STL)に変換されますが、基本的にそのまま3D CADで編集利用することはできません。通常のサーフェスやソリッドといった3D CADデータとは異なるため、後工程での利用が困難なこともあり、取り扱いには注意が必要です。

 編集/修正作業では、3Dスキャンできなかった箇所の穴埋め、ノイズ処理、スムーズ処理などを行います。その後、面張りやソリッド化作業などを行い、3D CADデータ化します。これらの作業を含めてリバースエンジニアリングと呼ぶわけですが、専用の機能が搭載されたソフトウェアを使用することで、自動でCAD面を生成したり、境界線・面構成を手動で作成し、計測データに沿った面を作成したり、計測データを参照してモデリングを行ったりします。

現物から3D CADデータを作成(リバースエンジニアリング)する流れの例
図5 現物から3D CADデータを作成(リバースエンジニアリング)する流れの例 [クリックで拡大]

3Dスキャナーを活用するにはノウハウやテクニックが必要か?

 3Dスキャンデータを3D CADデータ化するリバースエンジニアリングは、普段3D CADを使っている人であれば、ある程度トレーニングを受けて経験を積めば使えるようになるでしょう。

 3Dスキャナーでの計測は、3Dデータを複数の角度から撮影し、取得した画像を合成していくことで作成していきます。そのため、データを重ね合わせて結合する「合成誤差」が生じます。精度として、単純な精度と点群のバラつき精度、繰り返し測定の精度などがあります。

 合成誤差を減らすには、なるべく測定回数を減らして、高い精度で形状を読み取る必要があります。形に合わせた最適な3Dスキャン方法を考える必要があり、機器とソフトウェアの特性を理解した上で作業するテクニックが必要になります。こう聞くと、「3Dスキャナーは習得に時間がかかる……」と思われるかもしれませんが、使っていくうちにコツをつかみ、すぐに使えるようになるでしょう。中には、位置合わせを適切に行うために、目印であるマーカーを製品や周囲に張り付けて3Dスキャンする機器もあります。

 3Dスキャナーは、3Dプリンタと同じくさまざまな種類があり、自社の目的に合う3Dスキャナーを選ぶ必要があります。メーカーによって使い勝手も違います。また、メーカーごとに独自環境の下でテストを行っているため、カタログ値のみで良しあしを判断することも困難です。そのため、機種選定の際は、実際に3Dスキャンして比較することを強くオススメします。

3Dスキャナーをうまく設計業務に活用していこう

 ここまでの解説を読んでみて、「便利そうだけど難しそう/面倒そう」と思われる方もいるかもしれません。しかし、前述した通り、3Dスキャナーにはさまざまな利用用途があり、うまく活用することで“設計者の働き方”を良い方向に変えることも不可能ではありません。

 自社の設計スキル、現場力のアップを目的に、3Dスキャナーの導入を検討し、設計者の働き方改革を進めてみてはいかがでしょうか。もし、はじめから自分たちだけで取り組むのが難しいのであれば、外部の3D測定サービスなどを活用してみるのも手だと思います。

 また、良い製品を観察して学ぶことも設計者として大切なことです。その際、細かい形状を詳しく調べるのに3Dスキャナーが大活躍することでしょう。



 今回、3Dスキャナーについて取り上げましたが、3Dスキャナー(機器本体)だけあっても、周辺ソフトウェアなどがなければ活用できません。点群やSTLデータを修正・編集するソフトウェア、3D CADデータ化するリバースエンジニアリングソフトウェア、検査するためのソフトウェア、その他にもハイスペックなPC、大容量のストレージなどが必要です。このあたりの内容は、今後の連載の中で詳しく解説していきたいと思います。お楽しみに! (次回へ続く

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筆者プロフィール

小原照記(おばら てるき)

いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。


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