「新車全て電動車」はどうなった? 年末に発表されたグリーン成長戦略をおさらい:カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会(0)(4/4 ページ)
2021年は、グリーン成長戦略の実行に向けて多くの企業が動き出す1年となるでしょう。グリーン成長戦略でどのような目標が掲げられたか、自動車を中心におさらいします。
物流や人流のカーボンニュートラル化へ、鉄道や航空機、船舶も排出削減
物流や人流でもカーボンニュートラルが求められます。ただ、CO2排出削減の取り組みは、移動や輸送量の減少の要因となるなど経済活動を抑制してはならず、ドライバー不足など社会課題の同時解決に資するものでなければならないとしています。
人流に関しては、クルマの使い方など国民に行動変容を促し、自家用車に過度に依存しない移動手段を確保します。地域公共交通活性化再生法を活用した地域公共交通の充実や、MaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などをサービスとして利用すること)の利便性向上などを官民一体で推進します。次世代型路面電車システム(LRT)やバス高速輸送システム(BRT)、公共交通の自動化や電動化など、CO2排出の少ない輸送システムの導入も促進していきます。また、自転車の通行空間の整備や活用推進も予定しています。
物流は、自動車よりもCO2排出原単位の小さい内航海運や鉄道への転換を促進します。現状では日本のCO2排出量の約7%をトラックが占めているためです。鉄道では燃料電池で走行する鉄道車両の開発が進められており、よりクリーンなエネルギーで走行することを目指しています。ただ、現行の基準や規制は燃料電池鉄道の走行を想定していないため、新たに整備も必要です。船舶でもカーボンフリーに向けて水素エンジンやアンモニア燃料エンジンの検討、LNG(液化天然ガス)船のスペース効率向上や再生メタン活用による実質ゼロエミッション化を進めます。また、国際海事機関(IMO)において、既存船の燃費性能規制や燃費実績の格付け制度を日本から提案し、性能が劣る船舶の代替え促進やCO2排出が少ない船舶へのインセンティブ付与を目指します。
物流施設での省人化による節電、再生可能エネルギー設備の導入、冷凍冷蔵倉庫における省エネ型自然冷媒機器への置き換えなども進めていきます。国内貨物輸送の8割をトラック輸送が占めていることを踏まえ、道路を賢く使うための交通流対策やダブル連結トラックによる物流の効率化も推進します。過疎地域などの物流では、ドローンや無人航空機で輸配送を担うことにより、輸送の効率化や物流網の持続可能性の確保を図ります。
空港でもCO2排出削減に取り組みます。既にエコエアポートガイドラインが策定され、各空港で低炭素化に向けた自主的な取り組みが推進されていますが、空港施設のLED化など省エネシステムの導入や、空港車両の電動化などを後押ししていきます。
航空機の運行で発生するCO2排出抑制や消費燃料の削減も課題となっています。国際民間航空機関(ICAO)では、2020年以降、国際航空のCO2排出量を増加させないという目標を採択しているため、達成には運行方式の改善や機体とエンジンの効率化、代替燃料の導入など複合的な取り組みが不可欠です。航空機の電動化や水素エンジンの採用、ジェット燃料でのバイオ燃料や合成燃料の普及拡大についてもグリーン成長戦略で触れています。
機体と航空管制当局の両方の高度化による効率的な航空交通システムの確立も必要です。航空機の出発から到着までの全てのフェーズで最適な軌道を管理・運用するため、柔軟な飛行経路の設定や空中待機の抑制を可能にする運行改善の実現も目指します。そのためには国際的な協調も不可欠です。
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