検索
連載

他社が製品を模倣した! とるべき法的アクションやリリース作成時などの注意点弁護士が解説!知財戦略のイロハ(8)(3/3 ページ)

本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略構築を目指すモノづくり企業が学ぶべき知財戦略を、基礎から解説する。今回は、他社が自社製品を模倣した場合、どのような法的措置を講じる選択肢があるのか、あるいはその逆に、模倣していると自社が訴えられた場合の対処法を解説する。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

プレスリリース内の表記、表現には注意

 訴訟提起した場合、プレスリリースを出す例も少なくありません。ただ、プレスリリースの発行が「虚偽事実の告知流布行為」(不正競争防止法2条1項21号)に該当すると見なされる場合もあります。プレスリリースの表現には細心の注意を払うべきでしょう*14)。実際に同行為が問われた裁判例について、詳細は割愛しますが、プレスリリース内での言葉の選択(例:「類似」ではなく、「極めて似た」「酷似」を採用したこと)や、断定表現の使用など細部の表現まで問われた例があります。

*14)知財高等裁判所判決平成28年2月9日(平成27年(ネ)第10109号)など。

 また、訴訟提起後、和解による終結後に出すプレスリリースについて同行為の該当性が争われた事案もあります*15)。和解後のプレスリリースでは、和解時にどちらがどのタイミングでどのような内容のプレスリリースを出すかを事前に合意しておくことが望ましいでしょう。

*15)東京地方裁判所判決15年9月30日判時1843号143頁「iOffice和解事件」など。

相手方がアクションを起こした場合はどうする?

 知財の権利侵害に関する法的紛争は、自社から他社へと起こすアクションだけに限りません。逆に相手方が自社に警告状を送付する場合もありますし、自社が起こした裁判に対する控訴や、あるいは別訴を起こされるリスクもあります。以下では、こうしたアクションに対してとるべきディフェンス行為を紹介します。

警告状を受け取ったら

 相手方から警告状を受け取った場合、まずは、反論可能なポイントを検討しましょう。特許権の場合は、非充足論や無効論の中で反論可能なポイントと共に、相手方が侵害している権利を具体的に見つける必要があります。特に、無効論については反論の検討準備に時間を要する場合が多いため、警告を受け取り次第、直ちに作業を始めるべきでしょう。

相手方への対抗手段〜無効審判請求〜

 相手方との交渉状況によっては、相手が侵害を主張している権利、あるいは、その他の権利について、特許庁に無効審判請求を行うことも考えられます*16)。無効審判においては、通常の訴訟のように相手方との間で書面で主張を交わします。その後、必要に応じて口頭審理期日が設けられるので、そこで審理を尽くした後、特許庁が当該権利の無効理由に正統性があるかを判断します。無効審判で無効の旨が審決され、当該審決が確定した時点で、原則、当該権利は初めから存在しなかったことになります*17)

*16)商標権の場合、不使用取消審判請求を行うことも考えられる。

*17)特許権の場合について、特許法125条本文。ただし、無効の理由が、特許後に発生した特許法123条1項7号に定める無効原因(特許権の享有主体違反、条約違反)に基づく場合には、特許権は、同号の該当を満たした時点から存在しなかったとみなされる(特許法125条但し書き)。

 なお、無効審判の平均審理期間は、権利の種類によって違いはありますが、約10カ月程度(2018年度)となっています(*リンク先PDF)。このように、相当程度の審理期間を要するため、侵害訴訟に対するカウンターとして無効審判請求を行う場合は、早期に手続きを開始する必要があります。仮に無効審判で自社に有利な判断が出ても、既に侵害訴訟の審理が終結してしまっている、あるいは終結間近で有効に活用できない、といった事態に陥る危険性もあります。

 無効審判で下された審決に不服がある場合は、知財高裁に控訴することになります。知財高裁における平均審理期間は、約9.3カ月(同年度)です。こちらも、上述のように、侵害訴訟のカウンターとして活用する場合には遅れないように気を付けたいところです。なお、侵害訴訟の控訴審と権利侵害訴訟の審決取消訴訟が同時期に生じた場合、統一的な判断を担保するため、知財高裁の同じ部に係属されて、事件を併合して審理するケースが多くなります。

反訴・別訴

 相手方から訴訟を提起された場合には、相手方の主張に反論することはもちろんですが、自社から積極的に相手方に反訴や別訴訟を提起し、対抗することも選択肢として考えられます。いわば「相手方の設定した土俵での戦い」ではなく、「自社が設定した土俵での戦い」に持ち込むわけです。

 自社の権利を相手方が侵害していると考えられる場合には、当該権利侵害を理由とした侵害訴訟を起こすこともあり得るでしょう。また、相手方が訴訟提起時に出した場合のプレスリリース内に自社に関する虚偽事実に当たる表現、表記が含まれる場合、虚偽事実の告知流布行為に該当するとして、当該行為の差し止めや損害賠償請求を行うことも考えられます。

おわりに

 今回は、知財戦略の取り組みの結果蓄えた知的財産権について、自社が権利行使する場合、そして、逆に他社が知的財産権侵害を理由にアクションをとってきた場合の留意点をご紹介しました。次回は、スタートアップとのオープンイノベーションにおいて注意すべき諸点を紹介します。

筆者プロフィール

山本 飛翔(やまもと つばさ)

2014年3月 東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了

2014年9月 司法試験合格(司法修習68期)

2016年1月 中村合同特許法律事務所入所

2018年8月 一般社団法人日本ストリートサッカー協会理事

2019年〜  特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」WG・事務局

2019年〜  神奈川県アクセラレーションプログラム「KSAP」メンター

2020年2月 東京都アクセラレーションプログラム「NEXs Tokyo」知財戦略講師

2020年3月 「スタートアップの知財戦略」出版(単著)

2020年3月 特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門奨励賞受賞


TwitterFacebook

スタートアップの皆さまは拙著『スタートアップの知財戦略』もぜひご参考にしてみてください。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る