LiDARの小型化と広視野角の両立へ、三菱電機の社内にそろっていた基盤技術:センシング(2/2 ページ)
LiDARを手掛けるサプライヤーが多い中、どのように技術的な強みを発揮するか、三菱電機 先端技術総合研究所 先進機能デバイス技術部長の山向幹雄氏に話を聞いた。
MONOist 車載用でのMEMS技術の実績は。
山向氏 ナビゲーションシステムやエアバッグシステムに使用する加速度センサー、クランク角やカム角を検知する回転センサー、エンジン吸気流量を計るエアフローセンサー、吸気圧やブレーキ負圧を計る圧力センサーといった製品があります。これらのMEMSセンサーは1980年ごろから開発していました。
LiDARのMEMSミラーには、これらの製品で培った微細加工技術や、半導体製造プロセスの技術が生かされています。具体的には、シリコンの厚板を掘ってくぼみを作る深堀りエッチング技術や、部分的に層を除去して中空に一部を浮かせるサーフェイスマイクロマシニングなどがあります。MEMSミラーの周囲の配線パターンに、こうした微細加工技術が使われています。
レーザーの反射光を効率的に集約してより多くの光を検知器に集めるための光学設計技術や、光学部品を最適に配置してケラレ(部品の位置が影になるなどの理由で光がうまく入らないこと)を抑制する光路設計技術も社内にあります。例えば、光通信モジュールは、数cmのデバイスの中に半導体レーザーと変調器、レンズ、空間光学系合成器などをパッケージングしなければなりません。PM2.5を検出する空気質センサーでも、レーザーの光路を確保する適正な配置や、散乱光を効率的に集約する独自のダブルミラー構造などに取り組んでいます。こうした技術も車載LiDARに生かしています。
MONOist LiDARは量産車に搭載するにはコストが高いといわれます。
山向氏 レーザーや検出器など光学部品が高いです。MEMSミラーは大量生産できるので、コストを下げられると考えています。また、社内にさまざまな基盤技術があることで、他社が外部から調達しなければならない部品でもスピーディーに開発できますし、何かを変更するときにもスムーズに対応できます。将来、量産するときの状況次第ですが、社内の技術に競争力があればLiDARの構成部品も内製するでしょう。
MONOist 開発品のサイズは当初からの目標ですか。
山向氏 開発の中で、だんだん小さくしていって容積900ccを達成しました。当然、量産を前提にした設計です。自動車メーカーがどの程度の性能やサイズを要求するのかによりますが、性能と小型化を両立できるのであれば、競合他社が発表した最小モデルくらいまでは持っていきたいですね。
自動車はデザイン性が重視されるので、さらなる小型化は必須です。小型化が進めばランプやグリルに収めてLiDARを取り付けることができます。小型化のポイントとしては、MEMSミラー周辺の回路があります。電源回路や制御回路もまだ小さくする余地があります。ただ、小型化が進むと光学設計の難易度も上がります。光学部品を最適に配置できるかが問われます。
MONOist 現時点での検知距離を教えてください
山向氏 検知距離については公表していません。ターゲットが一般道の自動運転なので検知距離を伸ばすことは追い求めていないのです。視野角の広さを重視しています。LiDARに広い視野角があれば、先行車両や対向車両、交差点の歩行者、道路の横の街路樹や信号など、正確に把握することができます。今後、垂直視野角を広げると、近距離でも周囲の物体の全体像を検知できるので、環境を識別しやすくなります。
また、少ない搭載数のLiDARで車両の周囲を広くセンシングできます。これからの市場の伸びを考えると一般道での用途が多くなるのではないかと考え、こちらをやろうと決めました。
LiDARはレベル3以上の自動運転に必須となり、2025年には市場規模が3300億円にも拡大すると言われています。成長率は270%とも試算されています。周辺環境を認識するセンサーの検知性能には一長一短があり、補完し合うことが必要です。LiDARは周辺の物体の形状や距離測定を高精度に行い、自車との位置関係を正確に把握できるため、特に交通環境が複雑な一般道の自動運転に貢献できます。冗長性という面でも、汎用性が高いLiDARは他のセンサーをバックアップできるとみています。
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