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コロナ禍でも圧倒的に強いトヨタ、「下請けたたき」は本当かいまさら聞けない自動車業界用語(7)(3/4 ページ)

今回は業界用語ではなく番外編です。世間で語られる「トヨタの下請けたたき」。果たして実際は? 自動車業界で働く部品メーカーの中の人の視点で語ります。

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トヨタ以外は下請けをいじめていないのか

 世間ではトヨタだけが「下請けたたき」と言われがちですが、他の自動車メーカーで同様の事例は起きていないのでしょうか。実際には、価格に関する厳しさは他の自動車メーカーも変わりません。厳しい価格が提示され、年次の価格改訂が行われるのも同様です。また、同じ部品を納めていたとしても、トヨタよりも他社の方が安いといったケースもあります。

 ただ、原価管理はトヨタほど厳密ではありません。トヨタでは部品だけにとどまらず、単価の低い消耗品に関しても管理が徹底しています。例えば、トヨタでは梱包に使うダンボールやビニール袋まで品番が決められ、登録が求められます。他社では梱包材はおおむねのサイズや種類、荷姿のみの登録で、細かい仕様までは管理されていません。1円に満たない原価をどう捉えているか、推測することができますね。

 また、他の自動車メーカーと比べたときにトヨタが一線を画す分野もあります。それは、販売計画や企画台数の内示の正確さです。サプライヤーは自動車メーカーから月ごとに販売計画や台数の内示を受けますが、実際の台数との差が1番少ないのがトヨタです。計画変更があった際にも、すぐにサプライヤーに情報が発信され、対応可能かどうか確認されます。

 日本、海外を問わず、他の自動車メーカーでは事前情報と実際の納入数が大きく離れていることがよくあります。例えば、日産が2019年度決算を発表した会見では、社長の内田誠氏から「過去、販売を追い求める中でアグレッシブな台数を掲げて発注したことにより、サプライヤーに設備投資を強いたが台数が計画に達せず、サプライヤーの投資回収が問題になった」という言葉がありました。

 生産数量を過大に伝えることに悪意はないのでしょうが、サプライヤーにとっては「下請けいじめ」です。生産数量が計画通りであれば、その数量に対応した設備を整えることも必要な投資です。しかし、前述した日産の内田氏のコメントのように、サプライヤーに過度な設備投資を促し、実際は計画に満たないためにムダとなってしまうのは、大変なことです。補償の交渉は非常にもめやすく、全額の負担も難しいです。

こうした事象が続けば、自動車メーカーとサプライヤーとの信頼は崩れてしまいます。実際のところ、トヨタ以外の方が生産変動に伴う「下請けいじめ」が多いのが現状です。


 トヨタは他社と比べても、サプライヤーとの関係を非常に重視する会社です。異常の報告があれば現地現物で確認し、サプライヤーの困りごとを助ける支援を行います。コロナ禍の中でもサプライヤーの動向を事細かに情報収集していました。また、2020年上期はコロナ禍でのサプライヤーの経営悪化を懸念し、通常の価格改訂を見送るといった対応も取っています。

ティア2以降のサプライヤーの苦しさ

 トヨタはサプライヤーとの関係を非常に重視すると説明しましたが、あくまでもトヨタに直接に部品を納めるティア1サプライヤーが中心です。自動車部品はティア2サプライヤー、ティア3サプライヤー、その先までサプライチェーンが広がり、下にいくほど企業規模は小さくなります。

 トヨタからの厳しい価格に応えるために、サプライヤーもそれぞれの仕入れ先に対して厳しい価格を要求します。

 トヨタ並みの原価改善のノウハウや人材があれば、原価の削りどころを見つけて厳しい価格目標でも利益を出すことができるでしょう。しかし、技術力や人材が異なる中小企業では、同じように利益を上げることは並大抵のことではありません。

 サプライチェーンの裾野の方になればなるほど、厳しい要求は働く人や労働環境への皺寄せとなります。サプライチェーンを隅々までみたときに、働く人たちの環境が恵まれたものとはいえないケースも確実に存在しています。ただ、厳しい環境であっても、自動車の生産が多くの人の雇用を生み出し、生活を支えていることもまた事実です。

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