インテルのIoT戦略から生まれたRTOS「Zephyr」は徒花で終わらない:リアルタイムOS列伝(7)(3/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第7回は、IntelのIoT戦略から生まれたRTOS「Zephyr」を取り上げる。
商用/非商用問わず無償で利用できるのにグレードは商用OSに近い
ということで、意外なところでちゃんとユーザーがいることが判明したのがこのZephyrである。もともとRocket自身が、32ビットMCUをターゲットに、4KB程度のフットプリントで動作する軽量RTOSを目指したということもあって、こうした特徴はZephyrにも引き継がれている。
主な特徴は以下のようになっている。軽量という割には欲張った機能が提供されていることが分かるだろう。
- マルチスレッドベース。複数のスケジューリング手法をサポート
- スレッド間同期はバイナリ/カウンタ/Mutexの各セマフォを利用
- スレッド間通信はメッセージキュー(標準/拡張)とバイトストリーム
- パワーマネジメントサービスを利用可能
- POSIX互換APIを利用可能
- メモリ空間はシングル。MPU/MMUを利用したメモリ保護以外に、MPUを持たないプロセッサ上でのメモリ保護機能も提供。具体的にはプロセッサに依存するスタックオーバーフロー保護の他、カーネルオブジェクト/デバイスのパーミッション追跡、スレッド隔離などを提供する
- 標準でLwM2M(Lightweight M2M)およびBSDのソケット互換サービスを提供する(Nordic Semiconductorのプロセッサの場合は、さらにOpenThreadもサポート)
- LittleFS/FATFSに加え、NVS(Non Volatile Storage)などのファイルシステムへの対応をサポート
- シェルが提供される
- 非対称型(Arm向け:OpenAMP対応)と対称型マルチプロセッサの両方をサポート
また、サポートするプロセッサアーキテクチャは以下のようになっている。
- ARC EM/HS
- ARMv6-M, ARMv7-M, and ARMv8-M(Cortex-M)
- ARMv7-A and ARMv8-A(Cortex-A, 32- and 64-bit)
- ARMv7-R(Cortex-R)
- Intel x86(32- and 64-bit)
- NIOS II Gen 2
- RISC-V(32- and 64-bit)
- Tensilica Xtensa
Zephyrのプロジェクトが始まったのが2017年と比較的新しいこともあり、昨今のMCUのトレンドに沿ったアーキテクチャがサポートされている(逆に、古いアーキテクチャは未サポート)。オプションの形でBluetooth Low Energy(BLE)/Wi-Fi/IEEE 802.15.4 Radioがサポートされ、プロトコルとしても6LoWPAN/COAP/IPv4/IPv6/Ethernet/USB/CAN/Threadなどが対応リストに上がっている。
LTS(Long Time Support)の提供とセキュリティの対応に力点が置かれており、特にセキュリティに関しては安全規格の認証が取得できるレベルの監査をコードベースで行うことを念頭に置いている。
ただこうした体制なので、Zephyr Projectのメンバーは開発者個人というよりは企業メンバーということになる。実際に、Member Directoryを見ると、そうそうたる企業が名を連ねている。特に、セキュリティや安全規格、監査について原則参加できるのはPlatinum Member(年間10万〜12万米ドルを支払う必要がある)に限られており、これだけの金額を支払うからには真剣に活動を行って成果を上げる必要がある。
その意味でZephyrは、Apatch 2.0 Licenseで提供され、商用/非商用問わず無償で利用できるにしては、かなり商用OSに近いグレードのRTOSが提供されているということになる。知名度の低さから、あまりこれを利用しているという話を聞いたことはないのだが、なるほどIntelが自社製品にZephyrを採用したのは、単に他のOSを扱える人間がいないなどという理由ではなく(いや、それはそれであるのかもしれないが)、それなりに製品のクオリティーを保つためには必須のRTOSであると判断したのかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 連載記事「リアルタイムOS列伝」バックナンバー
- 豪華絢爛な採用実績を持つRTOSの老舗「VxWorks」の行く先
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第3回は、現在流通しているRTOSの中で最も古くから使われている「VxWorks」を取り上げる。 - インテルの枷が外れたウインドリバー、組み込みOSの老舗はIoTで本気を出せるか
2018年4月、インテルの傘下を外れることが決まったウインドリバー。これは、組み込みOSの老舗である同社にとって、IoT市場に本格的に参入するきっかけになるかもしれない。 - 「組み込みOS無償提供」で変わるウインドリバーの戦略
航空宇宙などミッションクリティカルな分野で高い評価を得る「VxWorks」などで知られるウインドリバーが、クラウド対応組み込みOSの無償提供に踏み切った。その狙いを米Wind Riverのプレジデントが語る。 - ウインドリバーがクラウド対応RTOSなど無償提供、クラウド開発環境も無償で
ウインドリバーがクラウド対応OS「Wind River Rocket」「Wind River Pulsar Linux」ならび対応開発環境、テスト環境を無償提供する。32bit MCUまで対象としており、IoTエンドデバイスまでも視野に入れる。 - インテルがIoTエッジ向けプロセッサに10nmプロセスを採用、TSNや機能安全対応も
インテル(Intel)が産業機器などのIoTエッジ向けに10nmプロセスを採用したプロセッサ製品群を発表。低消費電力を特徴とする「Atom」の新たな製品ライアップとして「Intel Atom x6000Eシリーズ」を投入し、より性能を重視した用途向けには「第11世代 Core プロセッサ ファミリー」をIoTエッジ向けに最適化した製品を展開する。