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造形品質を大きく左右する3Dプリンタのキャリブレーションの重要性デジファブ技術を設計業務でどう生かす?(6)(2/2 ページ)

3Dプリンタや3Dスキャナ、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。第6回は、3Dプリンタを実際に動かす前に必要な“セッティング(段取り)”について詳しく解説する。

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(2)水平調整

 造形プレートが水平になっていないと、(1)で調整したノズルと造形プレートの隙間が一定にならず、ノズルから吐出される材料が造形プレートにきちんと積層できません。

 造形プレートの水平調整は、ネジなどを回して手動で調整するものや、自動で調整してくれるものがあります。一般的に造形プレートの四隅と中央の各箇所で水平を調整します。

 基本的に(1)高さ調整と(2)水平調整は、毎回行う必要はありません。ノズルを交換した際や、うまく造形できない場合などに設定を見直してみてください。また、造形プレートは何度も使用しているうちにゆがんできたり、材料の定着が弱くなってきたりする場合があります。その際は新しいものに交換するようにしましょう

 どうしても材料が造形プレートから剥がれてしまう場合は、スティックのりを造形プレートに塗ったり、ヘアスプレーを塗布したり、マスキングテープなどのシートを造形プレートに張ったりすることで、材料との定着力を向上させることができます。ただし、こうした手段は、使用する機種や材料によって推奨されていないこともありますので、説明書や注意事項などに目を通し、自己責任で行ってください。ちなみに、前述したような手段で定着させ過ぎると、造形物の取り外しに苦労する場合もあるので十分注意してください。

 また、スライスデータを作成する際に「ブリム」を設定することで、接地面を広げて、造形物の剥がれや反りを抑えることができます。

フィラメントの充填(ロード)

 材料(フィラメント)のセットは、3Dプリンタの機種によって違いはありますが、基本的に3Dプリンタ側のタッチパネルやソフトウェア上で[フィラメントをロードする]ボタンを押し、材料をエクストルーダに通して、ノズルから材料を押し出します。エクストルーダは一般的に歯の付いたギアと、それをガイドするベアリングの間でフィラメントを送る構造となっています。

エクストルーダのイメージ図
図3 エクストルーダのイメージ図 [クリックで拡大]

 よくある不具合として、材料がノズルから出てこないことがあります。その場合、エクストルーダのギアとベアリングが適切な幅でフィラメントを挟み込めておらず、材料の送り出しがうまくいっていないことが考えられます。また、ギア部分に材料のカス(粉状になった材料)がたまっていることもあるので、クリーニングが必要な場合もあります。

 他にも、ノズルに冷えて固まった材料が詰まっていて材料が出てこないことがあります。その場合、材料の送り出しを手動でアシストしたり(材料を押し込んだり)、金属棒を差し込んで押したりすることで症状が改善されることがあります。

 温めたノズルの先端側から細いピアノ線などを入れることで、詰まりを解決することも可能です。細い針金のような専用のツールが3Dプリンタに付属している場合もあります。付属していなくても、ネット通販などでメンテナンス用品を入手することもできます。

造形前の段取りが重要!

 今回は、3Dプリンタを実際に動かす前に必要な(3Dプリンタ本体側の)段取りについて説明しました。

 これらを自動で調整してくれる機種であればよいのですが、手動で調整しなければならない場合、トライ&エラーで適切な条件(設定値)を探し出す必要があるため、慣れないうちはとても苦労します。もし、これから3Dプリンタを購入するのであれば、「キャリブレーションのしやすさ」も念頭に置いて機種選定するといいでしょう。

 3Dプリンタを使っていると、どうしてもトラブルはつきものです。特に今回取り上げたFDM方式の3Dプリンタの場合、造形に失敗することも多々あります。そのようなとき、問題の切り分けや解決に役立つのが、仕組みやその構造を理解しているかどうかです。

 長い時間をかけて造形したにもかかわらず失敗してしまうと、がっかりしたり、イライラしたりしてしまうこともあるでしょう。最初のうちは分からないことも多く、時間をたくさん浪費してしまうかもしれません。しかし、じっくりと向き合い、使用していくうちに、自分で調整/修理できるようになり、次第に思い通りに使いこなすことができるようになります。何事もはじめは大変だと思いますが、本稿を参考に、適切な段取り方法を身に付けてください。 (次回に続く

⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者プロフィール

小原照記(おばら てるき)

いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。


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