ニューノーマルでソニーが示す価値、センシングや映像技術をモビリティや宇宙に:CEATEC 2020(2/2 ページ)
2020年10月20〜23日にオンラインイベントとして開催された「CEATEC 2020 ONLINE」のキーノート講演として、ソニー代表執行役副会長の石塚茂樹氏が登壇した。「ニューノーマル社会にソニーが提供する新たな価値」をテーマとし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大による変化を踏まえ、その中でテクノロジーにより人々が安心してエンタテインメントを楽しめる新たな価値について提言した。
AIなどセンシング技術の拡張で新たな価値を創出
一方、ソニーがコア事業の1つと位置付けているCMOSイメージセンサーを含むセンシング領域では、モビリティへの取り組みを強化している。人のクルマの安全への貢献に加え、電気自動車普及によるCO2排出レベルの低減、電力のスマートグリッドの一部を担うことで再エネの普及にも貢献することが期待されている。ソニーでは、2020年1月の「CES 2020」で、次世代のモビリティの姿を模索する「VISION-S プロジェクト」を発表しており、新たなモビリティの姿の実現に対し、センシング技術の活用をベースにさまざまな方向性での検討を進めているという。
もう1つには、2020年5月に発表したAI(人工知能)処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサーがある。このセンサーを活用することで店舗内の客の行動を把握し、そのデータを商品、人材の最適配置に役立てることや、モノや作業員の動作を分析することにより製造現場での効率化を図ることが可能となる。2020年5月にはマイクロソフトとスマートカメラソリューションの協業も発表した。クラウドプラットフォームを組み合わせた最適なシステム構築により新たな顧客価値の提供を目指す。また、学習後のAIをエッジに配置することで、素早い処理に加えて、データの通信料、消費電力の削減にも貢献できる見込みだ。
COVID-19の影響なども含め、メディカル事業もあらためて注力しているところだ。組織や細胞の特徴を分析する蛍光試薬の素材となる蛍光色素KIRAVIA Dyes(キラビヤダイズ)を独自開発し、現在、他社へのライセンス供給や試薬の販売を行っている。同試薬はフローサイトメーター(細胞分析装置)を用いた再生医療、免疫学の研究や、ライフサイエンス分野での活用が期待されている。ソニーではBlu-ray Disc技術などを応用しフローサイトメーターに2010年に参入。最近では、米国のヴァンダービルト大学メディカルセンターがソニーのセルソーター「SH800S」を用いて新型コロナウイルスに結合可能な抗体を産出する細胞を分取することに成功しており「この領域でも着実に成果を残しつつある」(石塚氏)。
テクノロジーによるエンターテインメントの拡張
一方でCOVID-19により、新たな生活様式が広がる中で、エンターテインメントについても従来のリアルを中心としたものから、バーチャルを組み合わせたものへと変化しつつある。ソニーはエンターテインメント企業であると同時にテクノロジー企業でもあるため、これらをテクノロジーの力で解決することを目指す。
この取り組みの軸となるのが「Reality(リアリティー)」「Real-time(リアルタイム)」に「Remote(リモート)」を加えた「3Rテクノロジー」である。さらに石塚氏は「リアリティーあふれるコンテンツをリアルタイムに、リモートで楽しむことを実現するだけでなく、テクノロジーによってリモートならではの新しい感動を生み出すことにも挑戦している」と話した。
3Rテクノロジーを用いたリアルとバーチャルを組み合わせた新たなコンテンツ作りの具体的な事例としては、2020年8月に立ち上げたソニーPCLでのバーチャルプロダクションラボがある。これは、撮影所のセットや実在する場所の映像と3Dデータを収録し、スタジオに背景として設置するクリスタルLEDディスプレイシステムの中で、合成映像として忠実に再現するというものだ。本物のセットやロケ地での撮影と見分けのつかないリアリティーのある映像表現が可能となる。
その他、自由視点映像技術を用いた、360度を見渡すことができる全天球映像技術は、各社が提供するオンラインサービスが進み、さまざまなクリエイターによる臨場感のある新しいコンテンツが創り出されている。また、全天球映像技術の先を見据えたボリュメトリックキャプチャー技術の開発研究にも取り組んでいる。
音の世界ではバーチャルミキシングエンバイラメント技術を開発中だ。この技術はソニー・ピクチャーズエンタテイメントが2021年公開予定の「ゴーストバスターズ/アフターライフ」の音響制作にも活用され、高い評価を受けているという。スポーツの領域では、テニスのライン判定など、スポーツの判定サービスに使用する「ホークアイ」を提供してきた。「今後はホークアイの画像解析技術とトラッキング技術をさらに活用していく方針だ」と石塚氏は述べている。
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