ルネサスが注力する、「モービルアイやNVIDIAが参入できない領域」とは:つながるクルマ キーマンインタビュー(2/2 ページ)
コネクテッドカーや自動運転、電動化など自動車の進化と密接に関わる半導体。半導体サプライヤー各社は戦略を派手に打ち出し、自動車事業の拡大を狙う。その中でルネサス エレクトロニクスはどのように戦うのか、同社 オートモーティブソリューション事業本部 副事業本部長の片岡健氏に車載事業の戦略を聞いた。
MONOist 新興自動車メーカーのニーズをどのように感じていますか。
片岡氏 新興国の自動車メーカーはスピードを第一としています。特に中国では、民間の自動車メーカーが乱立していて、生き残りをかけた競争が激しくなっています。インドも同様です。それ以外の地域では、地場の自動車メーカーが今まさに立ち上がり始めたところで、こうした段階では性能よりもまずは品質を向上させることが課題です。
新しい自動車メーカーはエンドユーザーの目をひきやすい機能ほど、作り込みが必要ない出来上がった部品を求める傾向があります。まずはそういった機能でライバルの中から目立って、ユーザーに選ばれることを重視しているようです。こうした競争で生き残った先に、日米欧の自動車メーカーのような高度な作り込みに集中して取り組む段階に入るでしょう。
NVIDIAやモービルアイは入ってこられない分野
MONOist 水平分業型の半導体サプライヤーとは違う領域を狙っている、というのは具体的にどのような分野ですか。
片岡氏 これから電気電子システム(E/E)のアーキテクチャの変化が進みます。これまでは機能ごとにECU(電子制御ユニット)がバラバラに分散していましたが、セントラルゲートウェイが設けられ、そこに機能で分けられた「ドメイン」や「ゾーン」がぶら下がるアーキテクチャに変わっていきます。
われわれは、この中で不可欠なドメインコントローラーやゾーンコントローラーに注力しています。これは民生向けの技術を応用して車載用に参入してきた半導体サプライヤーは入ってこられない分野であり、歴史の長い車載半導体サプライヤー同士の競争になるとみています。
ドメインコントローラーやゾーンコントローラーを実現するには、各ドメインやそれぞれのECUをつなぐ通信とその容量、通信に伴うセキュリティに加えて、各ドメインのパフォーマンスが求められます。リアルタイム制御や複数のドメインから上がってくるデータのハンドリング、マルチギガビットイーサネットなど高速通信への対応、消費電力の低さも必要です。
MONOist ドメインコントローラーに対する自動車メーカーのニーズをどのように見ていますか。
片岡氏 ドメインコントローラーやゾーンコントローラーは車両の機能全体を継続的にアップデートする上でも必須です。インフォテインメントシステムから車両の制御まで全てに関わっており、複数のECUが関係するソフトウェアを一括してアップデートする役割を担います。ドメインコントローラーがなければ、インフォテインメントシステムなど一部の機能しかアップデートできません。
自動車メーカーやサプライヤーがリソースを使いたいのは、ECUが分散した既存のアーキテクチャからドメインアーキテクチャに移行することそのものではなく、ドメインアーキテクチャを基にしたADASなどの新しい機能です。そのためには既存のソフトウェアを効率的に流用したり修正したりしながら、ソフトウェアの開発工数を抑える必要があります。
これまでのE/Eアーキテクチャの資産の延長線上にドメインアーキテクチャがあることを考えると、ECU単体の時代からのルネサスの実績や信頼がドメインコントローラーでも生かせます。これまでの個々のマイコンのソフトウェアの再利用やマイコンからSoCへの置き換えといったスケーラビリティを提供するとともに、SoCの通信やセキュリティを応用することができます。また、ボディー系やパワートレイン系、シャシー系を幅広く手掛けてきたので、ドメインアーキテクチャへの移行で有利です。セキュリティとセーフティに求められるアーキテクチャや開発環境の統一など、取引先のアプリケーションソフトウェア開発の“下回り”も整えます。
このように考えると、水平分業型の半導体サプライヤーと競っている領域は必ずしも同じではありません。彼らは自動運転技術の認知や判断の特定の分野でビジネスを展開していますが、走る・曲がる・止まるまでは進出していないので車両の制御機能全体に関わるドメインコントローラーを手掛けるのは難しいとみています。
VWのドメインコントローラーで採用
ドメインコントローラーやゾーンコントローラーでのルネサスのビジネスは既に動き出している。コンチネンタルの車載コンピューティングプラットフォームで、ルネサスのSoC「R-Car M3」の採用が決定。この車載コンピューティングプラットフォームはゲートウェイ機能を持ち車両システムを集中制御するもので、コンチネンタルの「ビークルサーバ」の基盤となっている。
コンチネンタルのビークルサーバは、「車載アプリケーションサーバ(ICAS1)」としてフォルクスワーゲン(Volkswagen)の電気自動車(EV)「I.D.」に搭載される。I.D.ではEV専用にプラットフォーム「MEB」を新たに設計しており、E/Eアーキテクチャも刷新してコネクテッド機能を強化している。ビークルサーバは「高度なコネクティビティを持ったサービス指向アーキテクチャでの中心的な要素」(コンチネンタル)だという。
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