電波望遠鏡向けの小型マルチバンド受信機を開発、干渉波を1万分の1以下に減衰:宇宙開発
東芝は、電波望遠鏡向けの小型マルチバンド受信機を開発した。独自のマルチバンドフィルターにより、従来は観測できなかった周波数帯で高感度での天文観測ができる。高断熱、低損失の配線技術を採用し、受信機の小型化、低消費電力化に成功した。
東芝は2020年9月29日、天体観測に使用する電波望遠鏡向けの小型マルチバンド受信機を開発したと発表した。
同受信機は、独自のマルチバンドフィルターを搭載しており、1.4G〜2.4GHzの周波数帯において高感度での天文観測が可能だ。この周波数帯では、携帯電話の基地局などによる電波干渉が起こるため、従来は観測が困難だった。
同社のマルチバンドフィルター技術は、独自の高周波回路技術と超伝導技術を用いたもので、無線周波数帯を避けることで天体の電波をほぼ劣化させずに受信できる。4つの周波数帯を同時に受信可能で、損失を0.1dB以下に低減し、無線周波数帯の干渉波を1万分の1以下に減衰する。
また、超伝導回路において超伝導状態を保持するには、回路を−196℃以下に冷却する必要があり、従来は冷却能力に応じて冷凍機が大きくなってしまうという課題があった。
同受信機は、最大50倍の断熱性能と低損失性能を持つ独自の配線技術が採用しており、冷凍機のサイズが10分の1以下に抑えられ、消費電力も従来の30分の1に低減する。装置が小型化したことで、これまでは困難だった場所にも設置可能になった。
同社は今後、同受信機を国内の複数の電波望遠鏡に組み込んで実証実験を進め、早期の実用化を目指す。また、世界10カ国が参加する大型国際天文プロジェクトで建設が見込まれる電波望遠鏡への採用を目指し、さらに開発を進める。
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