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H3ロケットの完成が1年延期に、エンジン開発の「魔物」はどこに潜んでいたのか宇宙開発(3/4 ページ)

JAXAは、開発中の次期主力ロケット「H3」の打ち上げ予定を1年遅らせたことを明らかにした。ロケット開発における最難関であり、「魔物」が潜むともいわれるエンジン開発で大きな問題が見つかったためだ。本稿では、どのような問題が起きたのか、その対策はどうなっているかを解説しながら「魔物」に迫っていきたい。

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土壇場で発生した2つの深刻な問題

 第1段エンジンへのエキスパンダーブリードの適用は、H-IIA初号機打ち上げ直後の2002年に検討が開始された。その後、「LE-X」として要素技術の実証を先行して進め、開発リスクの低減を目指した。計算機の高性能化もあり、LE-7Aの時代に比べて、数値解析によるシミュレーションをより積極的に活用したことも大きな特徴である。

 燃焼室とターボポンプの単体試験を行った後、2017年4月からは、両者を統合したエンジンの燃焼試験が始まった。まずは「実機型」と呼ばれる試作エンジンにより、延べ5台を使った燃焼試験を実施。続いて、その結果を設計にフィードバックした「認定型」(フライトモデルに相当)の燃焼試験が、2020年2月より行われていた(表2)。

回数 試験日 試験時間(秒) 燃焼圧力(MPa) FTP回転数(rpm) OTP回転数(rpm) 結果
第1回 2020/2/13 101.4 9.39 3万9992 1万6360 自動停止
第2回 2020/2/21 95.0 10.80 4万1499 1万7332
第3回 2020/3/31 100.0 10.60 4万0910 1万7355
第4回 2020/4/7 6.6 - - - 手動停止
第5回 2020/4/17 210.0 10.60 4万1003 1万7389
第6回 2020/4/25 120.1 10.50 4万0197 1万7235 自動停止
第7回 2020/4/30 240.0 10.59 4万0280 1万7327
第8回 2020/5/26 225.5 10.87 4万0990 1万7261 自動停止
表2 認定型エンジンの燃焼試験

 今回、問題が発生したのは、この認定型エンジンの8回目の燃焼試験である。終了後の内部点検において、以下の2つの事象が確認されたという。

  1. 液体水素ターボポンプ(FTP)のタービン動翼が破損(76枚中の2枚)
  2. 燃焼室の内壁に割れ目が14カ所発生(最大で幅0.5mm、長さ1cm程度)

 上記1.の問題は、共振による金属疲労が原因と推測されている。燃焼試験は毎回異なる条件で実施しているのだが、詳細な解析の結果、6回目までの試験で共振条件に合致していた可能性があり、ここで疲労が蓄積。そして6回目以降の試験で、共振による疲労が進行した可能性があることが分かった。

FTPで発生した問題
FTPで発生した問題。金属疲労により、タービンの第2段動翼と呼ばれる場所が破損した(クリックで拡大) 出典:JAXA

 続く2.の問題は、燃焼室内壁が設計値以上に高温化したことが原因と推定された。燃焼ガスは約3000℃という高温になるが、今回の8回目の試験は、意図的に高めの温度で実施していたという。それでも問題がないように設計していたものの、想定よりも温度が上がって内壁が変形し、冷却溝まで達する穴が開いてしまった。

燃焼室で発生した問題
燃焼室で発生した問題。内壁が変形した結果、凸部に熱が集中、溶損して板厚が低下した(クリックで拡大) 出典:JAXA

 今回、通常より高い温度で燃焼試験を行ったのは、量産時の製造誤差を考慮してのことだ。部品にはそれぞれ、必ず誤差がある。精度が非常に高ければ、全てのエンジンが同じように燃焼するだろうが、それだと製造コストが跳ね上がってしまう。コストダウンのためには、ある程度の誤差を許容する設計にする必要があるわけだ。

 噴射器(インジェクタ)や冷却溝の製造誤差により、燃焼室内壁の温度は変動する。今回の燃焼条件は、バラツキが最も大きい場合を想定していたが、事前の予想を超える温度分布になっていた可能性がある。ただし、起動・停止時の一時的な冷却不足の可能性もあり、高温化の要因の特定はできていない。

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