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H3ロケットの完成が1年延期に、エンジン開発の「魔物」はどこに潜んでいたのか宇宙開発(2/4 ページ)

JAXAは、開発中の次期主力ロケット「H3」の打ち上げ予定を1年遅らせたことを明らかにした。ロケット開発における最難関であり、「魔物」が潜むともいわれるエンジン開発で大きな問題が見つかったためだ。本稿では、どのような問題が起きたのか、その対策はどうなっているかを解説しながら「魔物」に迫っていきたい。

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「LE-9」は安全な爆発しにくいエンジン

 H3ロケットのメインエンジン「LE-9」は、H-IIA/Bの「LE-7A」と同じく、液体水素と液体酸素を推進剤に使うエンジンである。しかし、LE-9では、ロケットのコンセプトである高信頼性と低コストを実現するために、LE-7Aとは全く異なる方式が採用された。

 大型ロケットエンジンでは、大量の推進剤を燃焼室に流し込むために、ターボポンプが利用される。このとき、ターボポンプのタービンを駆動するガスをどうやって発生させるか、駆動後のガスをどう処理するかの違いにより、エンジンは大まかに分けて以下の4種類に区別することができる(表1)。

タービン駆動後の処理方式
クローズドサイクル オープンサイクル
タービン駆動ガス
の発生方式
副燃焼室あり 2段燃焼 ガスジェネレータ
副燃焼室なし フルエキスパンダー エキスパンダーブリード
表1 ロケットエンジンの種類。2行×2列の組み合わせで4種類がある

 いずれの方式も、駆動ガスにはロケットの推進剤を使うのだが、その発生方式としては、副燃焼室を使う方法と使わない方法がある。副燃焼室を使うと燃焼ガスによって大きな駆動力を得られるため、大推力を出しやすい。大推力が必要な第1段エンジンは、一般的にこの方式であることが多い。

 駆動ガスの処理方式としては、燃焼室内に戻す方式(クローズドサイクル)と、燃焼に使わず排出する方式(オープンサイクル)がある。前者の方が推進剤の無駄がなく、エンジンとしての性能は高くなるものの、高圧の燃焼室に戻すにはそれ以上の高圧にする必要があるなど、難易度とコストは高くなる。

 LE-7Aは、第1段エンジンとしては理想的といえる「2段燃焼」サイクルを採用していた。しかしこの方式は、性能を追求できる反面、複雑なためどうしても高コストになる。一方、LE-9で採用したのは、「エキスパンダーブリード」サイクルである。これは従来の第2段エンジン「LE-5A」「LE-5B」で実績はあったものの、第1段での採用は世界初となる。

 その特徴は、副燃焼室がないため、高温、高圧の部位が少なくて済むということ。万が一異常が発生しても、爆発のような破壊的な現象につながりにくく、本質的に安全なことは大きなメリットだ。日本にはまだ有人ロケットの開発計画はないものの、安全性の高さは、将来の有人ロケットにも適しているといえるだろう。

 また仕組みも簡素にできるため、LE-7Aに比べるとコンポーネントが20%も削減され、大幅な低コスト化を実現した。ここでは詳しく触れないものの、3D造形技術を導入するなど、その他にも製造コストを低減するためのさまざまな取り組みが行われている。

 ただその一方で、エキスパンダーブリードでは、燃焼室を冷却し、その熱によってガス化した燃料(液体水素)でタービンを駆動するしかないため大型化が難しかった。従来のLE-5Bの推力が14トンだったのに対し、LE-9で求められたのは150トン。10倍以上もの大推力化は、決して簡単なことではなかった。

 大型化での技術的な課題となっていたのは、燃焼室の冷却時にいかに効率良くエネルギーを獲得できるか、ということだった。これを実現するため、LE-9の燃焼室には、最新の製造技術により、500本もの微細な冷却溝を配置。内壁と冷却溝の間は、わずか0.7mm程度という薄さになっていた。

「LE-9」エンジンの概要
「LE-9」エンジンの概要。液体水素は極低温のため、燃焼室の冷却にも利用している(クリックで拡大) 出典:JAXA

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