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“不確実”だからこそ必要な「設計力」と「デジタル人材」の強化ものづくり白書2020を読み解く(3)(1/5 ページ)

日本のモノづくりの現状を示す「2020年版ものづくり白書」が2020年5月に公開された。本連載では3回にわたって「2020年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第3回では“不確実”な世界だからこそ製造業に求められる「設計力強化の必要」と「人材強化の必要」について解説する。

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 2020年5月に公開された「令和元年度ものづくり基盤技術の振興施策」(以下、2020年版ものづくり白書)を読み解く本連載。これまで2020年版ものづくり白書の「第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望」を中心に、日本の製造業の現状と今後日本の製造業が講じるべき対策について紹介してきた。

 2020年版ものづくり白書は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、新型コロナウイルス感染症)の世界的な感染拡大が進行する中で策定された。そのため、この感染拡大の動きに加えて米中貿易摩擦に代表される保護主義的な動きの台頭、地政学的リスクの高まり、急激な気候変動や自然災害、非連続な技術革新のもたらす影響などの予測し難い事態をまとめて「不確実性」と総称したことが特徴である。2020年版ものづくり白書では、この不確実性の高まる世界における日本の製造業の現状と課題を分析し、そのリスクに対処する方策として次の4つを提起している。

  1. 企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)強化の必要
  2. 企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション推進の必要
  3. 設計力強化の必要
  4. 人材強化の必要

 第1回の「日本の製造業を取り巻く環境と世界の“不確実性”の高まり」では、日本の製造業の現状について整理した上で、新型コロナウイルス感染症拡大の影響も含めた近年の世界における不確実性の高まりを確認した。そして第2回の「“不確実”な世の中で、企業変革力強化とDX推進こそが製造業の生きる道」では、これら4つの方策のうち「企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)強化の必要」「企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション推進の必要」について掘り下げた。第3回となる今回は「設計力強化の必要」と「人材強化の必要」について見ていくことにする。

製造業における設計力の重要性

 本連載の第2回で見たように、2020年版ものづくり白書は「不確実性が著しく高まっている世界においては企業変革力強化が必要である」と述べており、そのためには「デジタル化が有効だ」としている。これを踏まえ、デジタル技術によるエンジニアリングチェーンとサプライチェーンの連携の意義について紹介するが、まずはその前提として、製造業におけるエンジニアリングチェーンの重要性について、あらためて確認しておく。

 製造業では、開発が進むに従って製造設備などが確定していくため、仕様変更の自由度は低下し、設計が完了した後の仕様変更の余地は極めて限定的なものとなる(図1)。このことから「製品の品質とコストの8割は設計段階で決まる」といわれており、できるだけ開発の初期段階であるエンジニアリングチェーンに資源を集中的に投入すること(フロントローディング)で、問題点の早期発見や品質向上、後工程での手戻りによるムダを少なくすることが重要になる(図2)。

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図1(左):仕様変更の自由度と品質・コストの確定度、図2(右):フロントローディングによる作業負荷の軽減(クリックで拡大)出典:2020年版ものづくり白書

 また、製造業およびその製品を取り巻く環境についてもグローバル化、顧客の製品機能要求の高度化や多様化、環境制約および資源制約の先鋭化が進んでいる。製品が複雑化していけばいくほど、エンジニアリングチェーンに掛かる負荷はより大きなものとなる。これらの負荷が高まる中で、世界的に高まる不確実性にも対応する必要が出てきている。想定外の突発的な環境や状況の変化が発生した際には、早急に製品の仕様を変更する必要がある。このような場合には、設計段階までさかのぼって対応せざるを得ず、しかも可能な限り迅速に対応することが重要となる。

 さらには仕様変更に対応する「製品設計」のみならず、仕様を変更した製品を効率的に製造できるよう、製造工程を迅速かつ自在に変更するための「工程設計」の能力も必要となる。このように、不確実性への対応には、製品設計と工程設計の双方を含むエンジニアリングに高い能力が求められる。このことからも、エンジニアリング能力はダイナミック・ケイパビリティの中核を占めるものだといえる。

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