1万℃の高熱から貴重なサンプルを守れ!〜再突入カプセルの仕組み【前編】〜:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(17)(2/4 ページ)
いよいよ、小惑星探査機「はやぶさ2」が帰ってくる。2回のタッチダウンで取得したサンプルを地球に送り届ける最後の関門となるのが地球大気圏への再突入だ。そのために使われる「再突入カプセル」とは、どのような装置なのだろうか。
降下中のカプセルの重要な仕事
はやぶさ2で、再突入の大まかな流れは以下のようになる。再突入のシーケンス、カプセルの構造とも、基本的には初号機とほぼ同じなのだが、細かな違いについては、次回の後編で見ていくことにしたい。
まずは、探査機本体からの分離だ。カプセルはヘリカルスプリングによって、18rpmの回転を与えられつつ、秒速20cmでゆっくりと押し出される。このままだと探査機まで一緒に再突入してしまうので、探査機はカプセルの分離後、化学エンジンを目いっぱい噴射して地球を避ける。
カプセルは、高度200kmで再突入を開始。しばらく弾道飛行を続け、高度10km付近まで落下したところで、ヒートシールドの分離を行う。ヒートシールドは、前面と背面の2枚がくっついているのだが、背面ヒートシールドが吹き飛ぶときにパラシュートも一緒に引き出す仕組みになっている。
再突入のシーケンスで、もっとも緊張するのはこの瞬間だろう。もしパラシュートが開かなければ、高速のまま地面に激突してしまう。実際、2004年に地球に帰還した米国の探査機「Genesis」は、月以遠で世界初のサンプルリターン計画(太陽風)だったのだが、パラシュートが開かず、カプセルが大破してしまった。
パラシュートを開いた4秒後に、ビーコン信号の発信を開始する。このビーコンは、カプセルを見つけるための“目印”となるものだ。貴重なサンプルが入ったカプセルは、絶対に見失うわけにはいかない。着地予想エリアの周囲5カ所には、アンテナが配置されており、ビーコンの方向を探索、その交点上にカプセルがいることが分かる。
再突入時は、大気によってブレーキがかかるため、カプセルには非常に大きなGが加わる。この衝撃で壊れないよう、カプセルの電子機器は、基板の間に樹脂を流し込んで固めて補強している。これでショートや破損を防ぐわけで、初号機では最後までしっかりビーコンを出すことができていた。
はやぶさ2のカプセル分離時刻などはまだ決まっていないが、初号機のときのタイムラインは以下のようになっていた。なお初号機は再突入の3時間前にカプセルを分離していたが、はやぶさ2は退避する必要があるため、これより早いタイミング(設計上は8〜12時間前)で分離を行う見込みだ。
時刻 | 再突入カプセルに関わる動作/事象 |
---|---|
19:51 | カプセル分離 |
22:51 | 再突入開始 |
22:56 | ヒートシールド分離、パラシュート開傘 |
23:08 | 着陸 |
23:56 | カプセル発見 |
はやぶさ初号機の再突入のタイムライン(2010年6月13日) |
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