ブランド戦略に欠かせない知財、商標が独自性を失う「普通名称化」を防ぐには?:弁護士が解説!知財戦略のイロハ(4)(2/2 ページ)
本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略の構築を図るモノづくり企業が学ぶべき知財戦略を基礎から解説する。今回取り上げるのは製品開発後のブランド戦略構築時に必要な知財関連の取り組みだ。特許権や商標権の取得だけでなく、製品名など自社商標の普通名称化を防止する対策も必要となる。
商標の普通名称化を防ぐには
商標登録後でも普通名称化は認定され得る
商標取得時に意識すべきなのが、自社商標の普通名称化をいかに防ぐかという点です。自社の商標が普通名称化していると特許庁が認識した場合、それを新規に商標登録することが困難になります(商標法3条1項1号)。
商標の普通名称化とは、既存の商品と異なる新しい製品が登場し、その製品の商標が特定の性能や効果を有する商品一般を指す普通名称のように使用されることを意味します。代表例は大幸薬品の「正露丸」です。正露丸は従来存在しなかったクレオソートを主剤とする整腸剤でしたが、非常に広く普及したため、それ以降、同様の成分を持つ整腸剤が「正露丸」と呼称されるようになってしまいました。このため大幸薬品による商標登録は事実上困難になったのです。実際に、大幸薬品が複数保持する「正露丸」に関する登録商標のうちの1つ(商標登録第455094号)は、東京高裁において無効であると判断され(東京高判昭和46年9月3日判タ269号204頁)、またその判決は最高裁で確定しています(最判昭和49年3月5日[昭和35年(行ナ)第32号])*8)。
*8)また他の登録商標(商標登録第545984号)についても、2006年に、不正競争行為差止等請求事件に関連して普通名称化したと大阪地裁で判断されている(大阪地判平成18年7月27日判タ1229号317頁)。大幸薬品は控訴及び上告するも、いずれも退けられ敗訴が確定している(高裁判決について、(大阪高判平成19年10月11日判時1986号132頁)。
このように登録商標が普通名称化すると、当該商標の識別力が低下し、顧客吸引力を失い、当該商標のブランド価値が毀損する可能性があります。また問題は商標登録前だけに限りません。実は商標登録後に普通名称化した場合にも、法的な問題が生じ得るのです。
商標法26条1項では普通名称化した商標を普通名称(同項2号、3号)、あるいは慣用商標*9)(同項4号)と呼び、商標登録自体は無効にならないものの、商標権の効力は及ばなくなるとしています。また、普通名称や慣用商標となった商標は、識別力が減退していると見なされるため、周知又は著名な商品等表示について、同一、または、類似の商品等表示の使用を禁じた不正競争防止法2条1項1号・2号に基づく当該商品等表示の使用差し止めを求めることも難しくなります*10)。
*9)もともとは他人の商品(役務)と区別可能な商標だったが、同種類の商品や役務の名称として同業者間で一般化したため、自己と他社の商品や役務を区別する上で役立たなくなった商標のこと。
*10)商標法46条1項1号は「その商標登録が第3条(中略)の規定に違反してされたとき」と定めており、商標法3条に違反したか否かの判断時期は登録査定時と解されるため。
自社商標の普通名称化を防ぐために
では自社商標の普通名称化を防止するには、どのような防止策をとればよいでしょうか。対策としては2通り考えられます。
(1)まずは登録商標であることを明示する
1つ目の対策は、登録商標であることを事業者及び一般需要者に認識させ、当該商標の識別力を保つことです。自社商標を使用する際に、それが登録商標であることを示す「(R)」や「●●は××株式会社の登録商標です」といった注意書きを付与することで、当該商標が登録商標であることを明示します。なお、まだ商標が未登録である場合や、国際展開しているプロダクト/サービスで、一部の国では商標未登録という場合は、上記の表記の代わりに「TM」(Trade Mark)や「SM」(Service Mark)を用いることが望ましいでしょう。
(2)他社による当該商標の無断使用を防ぐ
2つ目の対策は自社の登録商標、あるいは登録前の商標が、一般名称的に使用されていないか定期的にウォッチングして確かめることです。
そうした事例が見つかった場合、まずは自社の登録商標であることを明示するよう訂正を求めることが望ましいでしょう。また自社の登録商標であるにもかかわらず、他社がまるで自分の商標かのように使用している場合には、商標権侵害を理由に使用中止や表現修正を求めることも効果的でしょう。
なお、各種ECサイトで自社商標の無断使用を発見した場合は、出店している事業者に直接連絡することも考えられますが、ECサイトの運営者に通報し、運営者を通じて事業者に対応を求めることも効果的です。 ECサイトは今日かなりの広まりを見せているので、この販売ルートをつぶすだけでも普通名称化防止には大きな意味があるといえるでしょう。
小括
今回は、主にプロモーションにあたっての留意点をご紹介してきました。次回も引き続き、プロモーションにあたっての留意点を知財・法務面からご紹介していこうと思います。
筆者プロフィール
山本 飛翔(やまもと つばさ)
2014年3月 東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了
2014年9月 司法試験合格(司法修習68期)
2016年1月 中村合同特許法律事務所入所
2018年8月 一般社団法人日本ストリートサッカー協会理事
2019年〜 特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」WG・事務局
2019年〜 神奈川県アクセラレーションプログラム「KSAP」メンター
2020年2月 東京都アクセラレーションプログラム「NEXs Tokyo」知財戦略講師
2020年3月 「スタートアップの知財戦略」出版(単著)
2020年3月 特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門奨励賞受賞
スタートアップの皆さまは拙著『スタートアップの知財戦略』もぜひご参考にしてみてください。
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