ブランド戦略に欠かせない知財、商標が独自性を失う「普通名称化」を防ぐには?:弁護士が解説!知財戦略のイロハ(4)(1/2 ページ)
本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略の構築を図るモノづくり企業が学ぶべき知財戦略を基礎から解説する。今回取り上げるのは製品開発後のブランド戦略構築時に必要な知財関連の取り組みだ。特許権や商標権の取得だけでなく、製品名など自社商標の普通名称化を防止する対策も必要となる。
連載第3回の前回は、モノづくり企業が製品開発時に作成すべき契約や規程について、自社開発や外部委託の場合などのケースごとに紹介しました。今回は製品完成後の取り組み、特にプロモーション活動を実施する際の知財関連の留意点をご紹介します。
ブランド戦略に役立つ意匠権と特許権
製品が完成した後は、プロモーションなどのマーケティング活動を積極的に行うことになるでしょう。円滑なマーケティング活動のために、知財関連で考えるべきことも多数あります。その中から今回は(1)ブランド戦略の策定や実行時の留意点と(2)自社商標の普通名称化を防止する方法をご紹介します。
まずは(1)ブランド戦略の策定や実行時の留意点です。ここでは都合上「ブランド」を「ユーザーが企業の雰囲気やロゴ、商品やサービスを総合的に捉えて抱く何らかの印象」として定義しておきましょう*1)。ユーザーは製品のパフォーマンスや価格だけでなく、製品のブランド力を参考にして商品を選択することがあります。こうしたブランド力が消費者の意思決定に与える影響力は、多くの方がご自身の購買体験を振り返れば容易に想像できるでしょう。なお、念のため補足しておきますが、ブランド戦略とはあらゆるモノづくり企業が取り組むべき戦略のことで、一部の「高級ブランド製品」を扱うメーカーのみを対象とするものではありません。
*1)「ブランド」という言葉に法的な定義は存在しない。
そのためブランド戦略の構築は企業にとって重要な課題となりますが、その際に自社のブランド力を損なうことがないように、並行して自社のブランドを知財として法的に保護する取り組みも重視すべきです。
「ブランドの保護」というと商標権によるロゴやブランド名の保護をイメージされる方も少なくないと思います。しかし、ブランド戦略で重要なことは、ターゲットとなるユーザーに訴求する価値を決め、そのような印象をユーザーに与えられるように全てのUX(ユーザーエクスペリエンス)や施策に一貫性を持たせようとすることにあります*2)。この印象形成のための各種活動にあたって、知財が貢献できる余地は大きいといえます。特に、プロダクト/サービスデザインが重要視されている現在では、デザインを保護するための意匠権を取得する重要性はますます高くなっています。
*2)大企業に比して組織として小さいスタートアップの方が、一貫性の確保は実現しやすいといえよう。
キャッチコピーは商標権の取得を
意匠権だけでなく特許権もブランド戦略に活用する企業として、ここではダイソンを見てみましょう。ダイソンは主力製品である掃除機のコアバリューとして「吸引力の衰えない唯一の掃除機」を掲げていますが、この技術的性能を裏付けるエビデンスに自社の特許権を用いて「特許取得の元祖サイクロン方式」と打ち出しています*3)。このように技術的特徴をブランディングするにあたっては、技術的な性能*4)、製法や提供方法 などを示す特許を明示することが望ましいといえます。ユーザビリティのために製品のデザインを工夫したということであれば、デザインの意匠権を取得してエビデンスとすることも考えられるでしょう。
*3)山口義宏『デジタル時代の基礎知識「ブランディング」 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(翔泳社、2018年)も参照されたい。
*4)他の例として、マツダは自社のディーゼルエンジン「SKYACTIV」(商標登録第5341469号)がスポーツ性能と環境性能の高さを両立していることについて、エビデンスとして具体的な技術仕様を示すとともに「SKYACTIV TECHNOLOGY」という名称を使用している。技術仕様を示さずとも、価値のイメージが伝わるようにするという工夫だ。
またダイソンの「ダイソン。吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機。」*5)のように、エビデンスを端的に示すキャッチフレーズを製品のブランディング時に採用した場合は、そのキャッチフレーズについて別途商標権を取得することも考えられます。
*5)商標登録第5135136号
このように各種知的財産権の出願戦略においては、IPランドスケープやパテントマップに基づく分析だけでなく、ブランド戦略を考慮した上での知財取得を目指すことが効果的であると考えられます*6)。また、特許権、意匠権、商標権などに基づく差し止め損害賠償請求で他社をけん制することにより、他社の4P施策(Product/Price/Promotion/Place)に影響を与えられる可能性もあるでしょう。
*6)ブランド戦略の構築と、その後の戦略実行の詳細については山口義宏『デジタル時代の基礎知識「ブランディング」 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(翔泳社、2018年)を参照されたい。
その上で、製品に関わる全てのUXや施策に一貫性を持たせて、ユーザーに製品の印象をしっかりと残すために、ロゴなどの商標の使用方法をルール*7)として定める必要があります。なおルール策定時には経営陣だけでなく、デザイナーや弁護士/弁理士と協議して進めるべきです。これによって、自社のブランド形成を阻害する商標の使用に対し、商標権に基づいて差し止め請求が可能となります。
*7)例えば、Appleの「Apple Identity Guidelines」[PDF]や、東京都の「東京ブランドロゴのデザインマニュアル Ver.02」などが参考になるだろう。
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