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機械式時計のために開発された「ゼネバ機構」とは身近なモノから学ぶ機構設計“超”入門(6)(1/2 ページ)

身近にあるモノを題材に、それがどんな仕組みで動いていて、どんな機構が使われているのかを分かりやすく解説する連載。今回は、ゼンマイを使った機械式時計に使われている「ゼネバ機構」について取り上げる。

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 皆さま、こんにちは、プロノハーツの久保田です。政府による「緊急事態宣言」が解除され、外に出る機会も少しずつ増えてきたのではないでしょうか。まだまだ油断はできませんが、筆者も手洗いうがい、マスク着用を徹底し、「3密」を避けながら日常生活を取り戻しつつあります。

 先日、自粛期間中閉館していた「松本市時計博物館」(長野県)が久しぶりに開館したということで、思い切って訪れてみました。同博物館の中には、和洋の古時計がおよそ110点、大きな振り子時計から腕時計まで、さまざま展示されています。今回は、そんな時計に関わる機構を紹介したいと思います。

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機械式時計に使われる「ゼネバ機構」とは?

 機械式時計は、巻き上げたゼンマイのほどける力を、「ガンキ車」「アンクル」「テンプ」から成る調速機構が調節し、歯車が正しく時を刻んでいきます。機械式時計には本当にさまざまな機構が使われています。

 今回はその中から、「ゼネバ機構」について取り上げることにします。ゼネバ機構は、“間欠動作”を必要とするときによく使われる機構で、連続回転運動を断続回転運動に変換します。

 言葉でいうと分かりにくいので図1を見ながら、どのような動きをするのか確認してみましょう。図1の通り、ゼネバ機構は「原動節」と「従動節」から成り、原動節は永続的に回り続けますが、従動節は原動節に付いているピンが従動節に切られている溝に入っている間だけ回り、溝からピンが抜けると止まります。このようにして、連続して回り続ける力を使って、断続的に止まったり動いたりを繰り返す運動に変換していきます。

図1 「ゼネバ機構」の仕組みについて
図1 「ゼネバ機構」の仕組みについて [クリックで拡大]

 このゼネバ機構ですが、もともと機械式時計のために開発された機構で、時計産業が盛んであったスイスのジュネーブ(ジェネバ)が、その由来だそうです。

「ゼネバ機構」はどこで使われている? 時計を分解してみたが……

 では、このゼネバ機構、どういった経緯で開発されたのでしょうか。時計の中で断続運動をしているものといえば……「チッ、チッ、チッ」と止まって動いてを繰り返す「秒針」を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、残念ながら違います。

 その謎を解明すべく、試しに100円ショップで購入した時計を分解してみました。

図2 100円ショップで購入した時計を分解
図2 100円ショップで購入した時計を分解 [クリックで拡大]

 時計を全部ばらして確認してみましたが、やはり秒針の回転にゼネバ機構は使われていませんでした。実は、今回筆者が分解した時計のように、電池を入れて動くもののほとんどは「クオーツ時計」と呼ばれる時計です。

 これは交流電圧をかけると規則的に振動する水晶の性質を応用したもので、クオーツ時計に使われている水晶振動子は、1秒間に3万2768回振動します。その振動がIC(集積回路)によって、1秒に1回の電気信号へと変換され、ステッピングモーターが回転し、秒針が「カチッ」と1秒を刻むといった仕組みになっています。

 現在安価で買える時計のほとんどは、クオーツ時計です。そして、後述するその目的からも分かる通り、ゼネバ機構が使われているクオーツ時計は恐らくないでしょう。というのもこのゼネバ機構、もともとは機械式時計のゼンマイの巻き過ぎ防止、巻き止めのために開発された機構なのです。

 機械式時計の動力はゼンマイです。ゼンマイは、細長く平たい金属の板を巻き上げて、その反発力(伸びようとする力)を動力に変換します。「チョロQ」(タカラトミー)などのプルバック式の玩具にもよく使われていますね。

 ゼンマイは、必要以上に巻き過ぎると、途中で金属の板が切れてしまったり、大きな力が加わり過ぎて正確に時を刻めなくなったりすることがあります。これらを防止し、巻き過ぎることなく、正しく有効な力のみを使用できるようにと開発されたのがゼネバ機構です。

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