豪華絢爛な採用実績を持つRTOSの老舗「VxWorks」の行く先:リアルタイムOS列伝(3)(3/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第3回は、現在流通しているRTOSの中で最も古くから使われている「VxWorks」を取り上げる。
最大の特徴は対応プラットフォームの多さと採用実績の豪華絢爛さ
こうした充実した組み込み向けの機能があってという話が前提ではあるのだが、VxWorksの最大の特徴は、対応するプラットフォームの多さと、採用実績の豪華絢爛さにあるというべきか。VxWorks 5.5.1〜VxWorks 7までで提供されるBSP(Board Support Package)の総数は998にも及ぶ。さすがに最近は対応するアーキテクチャがx86/x64、Arm Cortex-A、PowerPC(旧Freescaleの「QorIQ」系とIBMの「PPC7xxシリーズ」)あたりに絞られてきたが、VxWorks 5.5.1の場合はMIPS各種や日立(まだルネサスになる前)の「SH2/SH3/SH4」、Motorolaの「68030/68040」、Intelの「XScale」などがまだラインアップされている。
もっと古い製品で言えば、Motorola/Freescaleの「ColdFire」やSun Microsystemsの「SPARC」、富士通の「FR-V」、Intelの「i960」などまでサポートされていた。メジャーなアーキテクチャはともかく、マイナーなアーキテクチャであってもニーズがあると対応してくれるという意味で、VxWorksは広くプロセッサメーカーに支持されたRTOSだった。
実績も華々しい。特にNASA(米国航空宇宙局)の宇宙開発系で、木星探査機の「ジュノー」や火星探査機の「マーズ・パスファインダー」、火星の地表探査に用いられた「フェニックス」や「マーズ・ローバー」など、主要な機器に広く利用されている。あるいは航空機でも、エアバスの軍用向け輸送機「A400M」や、BAE Systemsのレーダーシステム「トルネード」、ボーイングの旅客機「B787」などに採用されており、他にも自動車、各種産業機器、輸送システム、民生機器、医療機器など、採用例はかなり多い。変わったところでは、ネットワーク機器(それもCisco SystmesやAvayaなどのスイッチ類)に採用されたケースも少なくない。こうした採用実績は、これからRTOSを利用しようというユーザーにとって安心感につながるのは間違いない。
また、ミッションクリティカルなニーズに対応すべく、最新版ではVxWorks以外にも、DO-178C DAL A/IEC 61508 SIL 3/IEC 62304/ISO26262 ASIL-Dといった機能安全規格の認証を取得した「VxWorks Cert Edition」や、航空機向けにARINC 653への準拠を行った「VxWorks 653」など、より安全性を高めたバージョンを提供している。
連載第1回で掲載した、組み込み業界における利用OS/RTOSの推移を示した表では、VxWorksが直近でかなりシェアを落としている感がなくもない。しかしこれは、競争相手が増えたことで、メインストリーム(一般的な組み込み機器市場)でやや苦戦する一方で、航空宇宙や機能安全が求められる産業機器、医療機器などにターゲットをややシフトし始めていることの裏返しともいえる。もっとも、それでも5%台のシェアがあるから大したものではあるのだが。恐らくは今後も、こうした参入障壁の高い分野向けにVxWorksは生き残っていくと思われる。
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