樹脂を冷却しつつレーザー照射で熱溶着、JSTが新溶着技術の実用化に成功:材料技術
科学技術振興機構は2020年6月12日、樹脂部材の接合面をレーザーで熱溶着する新技術の実用化に成功したと発表した。樹脂表面、内部をヒートシンクで冷却することで、樹脂同士をより高精度で接合できるようになった。
科学技術振興機構(以下、JST)は2020年6月12日、ヒートシンク(放熱体)で樹脂部材を冷却しつつ、レーザーで熱溶着する新技術の実用化に成功したと発表した。光を透過する素材のヒートシンクを用いることで、既存のレーザー溶着技術に比べて樹脂同士をより高精度で接着できるようになった。
現在、樹脂の接合面を熱溶着するための熱源として、レーザー光が注目されている。熱板や熱風で溶着する手法や、超音波による振動で発生する摩擦熱により溶着する手法と比較すると、接合面に損傷を与えずに溶着できる点がメリットだ。
ただし課題もある。例えばレーザー光の1種であるCO2レーザーは波長の長い赤外線を用いるが、照射すると樹脂表面で急激な温度上昇が生じてしまい、溶解、ガス化して部材表面が損傷する恐れがある。このため最近では、波長の短いレーザー光を用いることで樹脂表面での発熱を抑える半導体レーザーが普及し始めている。しかし、波長の短い光は樹脂への透過率も高いため、一方に光吸収率の高い樹脂を用いなければ接合面を熱で溶着することが困難になるというデメリットも存在していた。
JSTはこれらの課題を解決するため、ヒートシンクを用いる新しい溶着技術を開発した。レーザー照射時に樹脂表面に接触させたヒートシンクで樹脂を冷却する。これによって樹脂表面と内部の温度上昇を防ぎつつ溶着する。樹脂に損害を与えにくく、かつ高精度で溶着できるため、精密デバイスの樹脂筐体や医療用マイクロチップ、液晶パネルなど精度や信頼性を要求される製品の溶着組み立てに役立つ。また、従来レーザー光でも溶着が困難とされていたオレフィン系樹脂やフッ素系樹脂など、レーザー光の吸収率が高いため発熱しやすい素材同士でも重ね合せて溶着できるという。
またJSTはこの技術を用いて、小型電子部品やマイクロ流路、フラットパネルといった製品を例に、代表的な素材と形状に対応した3種類の溶着機を完成させた。1つは小型電子部品に用いられるPPS(ポリフェニレンサルファイド)材の外周を、2つ目はマイクロ流路に使われているCOP(シクロオレフィンポリマー)材の流路外周を、3つ目はフラットパネルのPET(ポリエチレンテレフタレート)材の全周を溶着する。いずれの溶着機も、製品仕様で求められる溶着幅、精度、強度、加工時間の各項目を十分に満たすという。
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