ラズパイとカメラと100均の組み合わせで機械工具の在庫を可視化する:ラズパイで製造業のお手軽IoT活用(3)(2/2 ページ)
小型ボードコンピュータ「Raspberry Pi(ラズパイ)」を使って、低コストかつ現場レベルでIoTを活用する手法について解説する本連載。第3回は、カメラを組み合わせた画像解析の事例として、機械工具の在庫の2Sと在庫可視化をどのように実現するかについて具体的に解説します。
4.画像解析により在庫を「見える化」する
ここからラズパイが登場します。画像解析では「OpenCV」というオープンソースソフトウェア(OSS)を使用します※)。OpenCVは画像処理のライブラリですが、画像からある特徴を持つ物体を認識して、その特徴のある場所と数を返してくれる機能を有しています。そしてOSSなので誰でも無料で使用することができます。
OpenCVは、PCだけでなく小型ボードコンピュータであるラズパイでも動作します。一連のプログラムを作成すれば、ラズパイに接続したカメラで画像を撮影し、その画像から物体を識別するという流れを手動や自動で実行することができます。
OpenCVの画像認識方式は主に次の4種類があります。
- カスケード分類器:あらかじめ用意した形状とマッチしているものを検出
- ハフ変換:直線や円を検出
- Canny法:図形の縁取りをして検出
- 外接図形:長方形、三角形、円などの図形を検出
カスケード分類器は事前に認識させたいものの画像データを用意して学習させる必要がありますので準備に時間がかかりますが、その他3つの方式はすぐに使用できます。今回は、工具に貼り付けた円形のシールを認識させますが、これら3つの方式で画像認識率を比較したところ、最も認識率が高かったのはハフ変換でした。ですので今回はハフ変換を使用しています。
新たな配置図に基づいて配置換えした工具の在庫状態の画像を撮影します。その前に先述した通り、工具には画像認識用の円形のシールを張り付けておきましょう。OpenCVを使って撮影した画像を処理すれば、シールを認識した箇所がマークされます。そして、認識した箇所も座標軸の数値としてフィードバックしてくれます。
座標軸の数値が棚のどこの区画にあたるかをマスター項目として設定しておけば、どの置き場に幾つの工具があるのかを算出することができます。その結果として、どの棚に幾つの工具が在庫されているかを表示できるようになります。
在庫を「見える化」するという観点では、棚に置く工具の数は最大で5個にしておき、2個に減ったら補充するというような形でルール化しておくべきです。画像解析の結果として、在庫数が5〜4個は緑、3〜2個は黄、1〜0個は赤で表示すれば、棚内の工具の過不足がすぐに把握できますし、カメラの画像から棚の状態を確認することも可能です。
なお、以下の図7の在庫確認イメージは、サンプル数が少ないため、2個以上が緑、1個が黄色、0個が赤で表示しています。
こうすることで、多品種少量の工具が欠品しないように不足したら適宜補充するというルールを実用的に運用できるようになります。従来は、現場の作業者が見て欠品カードを書いて渡すといった手間が面倒なこともあり、結局は欠品になってから騒ぎ出すことが多いという話をよく聞きます。
工具が常にそろっている環境を作り出せれば、現場の作業者は製造の作業に集中できますし、モチベーションの向上にもつながります。
なお、OpenCVによる工具の認識には円形のシールを用いていますが、シールの色がくっきり出ないと認識されないケースがあります。このため、認識しやすい色のシールを使用するといった工夫が必要です。
また、今回シールを採用したのはランニングコストが安いからです。よく1次元や2次元のバーコードを刻印したり、RFIDチップを使用したりといった話がありますが、そうなると投資額が大きくなってしまい実現のハードルが高くなります。今回使ったシールは100円ショップで何十枚と手に入りますので圧倒的にコストを安く抑えられます。
ここまで3回の連載記事で紹介してきたように、ラズパイを使ったお手軽なIoT(モノのインターネット)によるデジタルからくりを構築して、ぜひ現場管理の向上につなげていただければ幸いです。
次回は、工場の業務管理で長年用いられてきた手書き日報の電子化にラズパイで挑戦します。お楽しみに!
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筆者紹介
株式会社アムイ 代表取締役
山田 浩貢(やまだ ひろつぐ)
NTTデータ東海にて1990年代前半より製造業における生産管理パッケージシステムの企画開発・ユーザー適用および大手自動車部品メーカーを中心とした生産系業務改革、
原価企画・原価管理システム構築のプロジェクトマネージメントに従事。2013年に株式会社アムイを設立し大手から中堅中小製造業の業務改革、業務改善に伴うIT推進コンサルティングを手掛けている。「現場目線でのものづくり強化と経営効率向上にITを生かす」活動を展開中。
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