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モノづくり企業が知財戦略に取り組む意味とは?弁護士が解説!知財戦略のイロハ(1)(4/4 ページ)

モノづくり企業の財産である独自技術を保護しつつ、技術を盛り込んだ製品、サービスの市場への影響力を高めるために重要となるのが知的財産(知財)だ。本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略の構築を図るモノづくり企業に向けて、選ぶべき知財戦略を基礎から解説する。

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活用例3:模倣品への早期対処

 モノづくり系企業の場合は特許権だけでなく、目的に応じて意匠権や商標権を活用することが知財戦略上で重要になる場合もあります。例えば自社製品の模倣品が出てきた場合、意匠権や商標権を使って有効な対策を講じることが可能です。

(1)各種プラットフォームへの通報

 模倣品がAmazonや楽天、メルカリなどのプラットフォーム上で出品されている場合を想定します。模倣品の出品を取り下げてもらうには侵害品の出品者に直接警告状を出すという手段も考えられますが、侵害品の数や侵害品を出品する出品者の数が多い場合は現実的な策とはいえません。プラットフォームの運営会社に対し、内容証明郵便や各プラットフォームで用意されている通報窓口から通報し、当該商品の取り下げを要求する方が効率的でしょう。

 通報を受けたプラットフォームの運営者は、通報者の主張する権利侵害の有無を確認することとなります。この際、仮に権利侵害の事由として「特許権の侵害」を主張したとしましょう。しかし特許侵害の有無を外観から判断することは難しく、侵害の確認は容易ではありません。このためプラットフォームの運営者が侵害行為を前提とした対処策を早期に講じることが困難となり、模倣品排除はなかなか進展しにくい状況になります。

 他方、製品デザインや登録商標などに関わる意匠権や商標権は、被疑侵害品(権利侵害が疑われる製品)の商品ページに掲載された説明文や商品画像を参照すれば侵害の有無を確認できる場合が多く、特許権よりも早期に模倣品排除を実現できる可能性があります。従って、あらかじめ自社の製品を各種プラットフォームで販売する予定がある場合は、早い段階から意匠権や商標権を取得しておくことが模倣品対策として有効といえます。

(2)税関差し止め

 国外で製造された模倣品が日本へ輸入されている場合には、税関差し止めによって対応できます。

 関税法は特許権、意匠権や商標権などの権利者に対して、自己の権利を侵害する貨物が輸入され得る場合に、税関長に対して、当該貨物の輸入の差止めなどを求めることを認めています(関税法69条の13、関税法施行令62条の17)。この際、差し止めが認められるには権利侵害の事実を税関で識別できることが要件の1つとなります。意匠権や商標権に対する侵害の事実は、税関の担当者が当該輸入品の外観を確認することで容易に判断できるため、特許権よりも事実確認がスムーズに進む場合が少なくないと思われます*4)

*4)例えば、特に化学品の特許侵害物品の税関差止の問題点を挙げるものとして、飯田圭・佐竹勝一「特許侵害物品(特に化学品)の水際差止の問題点について」知財管理 Vol,65 No.3 2015がある。

 実際に税関差し止めに意匠権や商標権を活用した事例としては、Appleやウェアラブルカメラ開発を手掛ける米国のモノづくりスタートアップGoProなどがあります。Appleはイヤフォンの形状に関する意匠権(登録第1477257号)を根拠に、税関差し止めの申し立てを*5)(斜視図のみ以下に引用します)、GoProは、「GOPRO(標準文字)」(登録第5716617号)と「HERO(標準文字)」(登録第5755340号)を根拠に税関差し止めの申し立てを行っています 。

意匠登録1477257より引用したイヤフォンの斜視図。実線で表された部分のみが意匠権が認められる範囲である[クリックして拡大]出典:特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
意匠登録1477257より引用したイヤフォンの斜視図。実線で表された部分のみが意匠権が認められる範囲である[クリックして拡大]出典:特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)

*5)Appleによるイヤフォンの輸入差し止め申し立て

小括

 今回は、モノづくり企業による知財の活用例を紹介してきました。次回からは、新規事業の立ち上げから各段階別にやるべきこと、そのメリットをご紹介していければと思います。

筆者プロフィール

山本 飛翔(やまもと つばさ)

2014年3月 東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了

2014年9月 司法試験合格(司法修習68期)

2016年1月 中村合同特許法律事務所入所

2018年8月 一般社団法人日本ストリートサッカー協会理事

2019年〜  特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」WG・事務局

2019年〜  神奈川県アクセラレーションプログラム「KSAP」メンター

2020年2月 東京都アクセラレーションプログラム「NEXs Tokyo」知財戦略講師

2020年3月 「スタートアップの知財戦略」出版(単著)

2020年3月 特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門奨励賞受賞


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スタートアップの皆さまは拙著『スタートアップの知財戦略』もぜひご参考にしてみてください。


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