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発想の転換から生まれた「10年間ファン掃除不要」を実現するレンジフードオイルスマッシャー開発秘話(2/2 ページ)

「10年間ファン掃除不要」を実現するレンジフードを開発した富士工業。「いかに清掃性を高めるか」ではなく「最初から汚さない」という発想の転換から生まれた「オイルスマッシャー」機能はどのようにして誕生したのか。オイルスマッシャーの設計担当者に聞いた。

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オイルスマッシャーはこうして生まれた

――オイルスマッシャーはどうやって誕生したのか? 企画背景を教えてほしい。

富士工業 商品開発本部 設計部 設計2課 係長の鈴木勝氏
富士工業 商品開発本部 設計部 設計2課 係長の鈴木勝氏(画像提供:富士工業)

鈴木氏 レンジフード内部にこびり付く油をどうやってお手入れしやすくするのかは、メーカーとしての長年の課題である。レンジフードに関する一番の不満がこの点であることは、ユーザーへのヒアリング調査などでも明らかだった。

 そこで、レンジフード内部に侵入する油の量を減らすことを目標に、まず金属製フィルターを改良。油煙がレンジフード内部に入る前に油を捕集できないか検討したが、この方法だとフィルターの清掃頻度が上がってしまうことが分かった。これまで、清掃性を高めるために、フィルターやファンに特殊なコーティングを施したり、ファンをワンタッチで取り外せる仕様にしたりと、いろいろな工夫を凝らした製品を開発してきたが、圧倒的な性能を実現するまでには至らなかった。

 しかしある時、従来の「清掃性を高める」という固定概念から、「だったら最初から汚さなければいい」という発想の転換が生まれた。これがオイルスマッシャー誕生のきっかけとなった。

――オイルスマッシャー機能の実現にはさまざまな苦労もあったと思うが、どうやって課題をクリアしたのか?

鈴木氏 高い油捕集率を実現する「吸い込み口の手前でディスクを回す」というアイデアは、一般的なレンジフードと比べてやや大きい、「ブーン」という不快な音が発生するという問題点があった。「いくら油の捕集率が高くてもこの音では製品化できない」ということで、製品化に向けて、ディスクのスリットを通過する流体の風速とスリット形状の関係性を調査し、これを最適化することで低騒音化を目指した。この研究は約1年がかりで行われ、その過程で音響の専門家と意見を交わすこともあった。

 また、スリット形状の設計では、加工性の問題に直面した。打ち抜き加工がしづらい材料であるステンレス材に対して、多数のスリットを安定して加工する必要があるため、生産部との協議も難航した。こうした「設計意図」×「量産加工の限界」に対して、その落とし所を見極めるために、シミュレーション、試作、検証を幾度となく繰り返し、ブラッシュアップしていき、現在の形状に行き着いた。

――どのようなアプローチで、シミュレーション、試作、検証を進めていったのか?

鈴木氏 発売日が迫る中、試作・検証にもそれ相応の時間を要するため、トライ回数にはどうしても限りがあった。そのため、1度のトライの精度を上げることがとにかく求められ、試作手配前の仮説設計とシミュレーションがとても重要な役割を果たしていた。また当然ながら、その作業の繰り返しにもかなりの時間が取られるわけだが、それぞれの可変要素の関係性が見え、次第に必要な試作条件の範囲を絞ることができた。

 試作条件が絞れた段階である程度の振り幅を設定し、数種類の試作品を製作して検証を行った。もちろん、事前のシミュレーション結果との間で差異も生じるため、レビューしながら次のトライに反映させることで、より精度を高めることができた。

評価試験の様子(運転)評価試験の様子(停止) 試作機による実験の様子 ※出典:富士工業 [クリックで拡大]

 事前のシミュレーションにより、結果としてトータルの試作回数と期間も削減できたが、さらに一連の試作・検証データが蓄積されたことの意味は大きく、今後、仕様変更が入るような場合などに、これらのデータが有効活用できるのではないかと期待している。

――最後に、今後の展望について教えてほしい。

鈴木氏 レンジフードの製品開発では、さらなる油捕集率の向上、運転音の低減、お手入れパーツの使用感の向上などに努め、ユーザーの皆さんにより満足していただけるようブラッシュアップしていきたい。そして、より多くの人たちに選ばれる製品の開発を続けていきたい。

 人の暮らしや社会に「本物の快適さ」を提供するため、人に寄り添う企業を目指し、「空気」を入り口にしながら、これからは新たな事業として「環境」にも積極的にチャレンジしていきたい。

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