機械学習で高性能な磁気冷凍材料を発見、水素ガスの低価格化につながる可能性:材料開発(2/2 ページ)
NIMSは機械学習を用いることで水素ガスの液化などに役立つ磁気冷凍材料の候補物質として二ホウ化ホルミウム(HoB▽▽2▽▽)を新たに発見したことを発表した。
機械学習により「候補物質の目星をつけやすくなった」
高野氏らはその後、物質組成は既知だがエントロピー変化量が未知である物質のデータを818個用意し、学習モデルにエントロピー変化量を予測させた。予測結果の中からエントロピー変化量が十分で放射性などが無く安全、さらに、磁気モーメントの大きな重希土類が含まれる物質という条件で絞ったところ、7個の候補物質が残った。その後、その後、シンプルかつ磁気冷凍性能(ΔS)が高い二元系の物質に絞ったところ最終的にHoB2が候補として選ばれたという。
「実際にHoB2の性能評価を行ったところ、水素液化付近の温度である20K付近で大きなエントロピー変化量を示した。また、驚いたことに15K付近では最大で0.35J/cm3Kの変化を示している。HoB2のエントロピー変化量は0.14J/cm3Kだと予測していたので、想定の2倍以上の良い結果を得られたことになる。磁気冷凍材料となる他の既存物質と比較しても、世界最高クラスの性能を示したと評価できるだろう」(高野氏)
また高野氏は今回の研究のように、実験科学に機械学習を活用することのメリットについて「機械学習が属する情報科学と実験科学の2分野を取り入れた研究はまだまだ少ない。両分野でそれぞれ高い専門性が求められるからだ。だが機械学習はパッケージなどを利用することで、実験科学の人間にも研究ツールとして活用しやすくなっている。今回、われわれは機械学習を活用することで、効率的に候補物質の目星をつけることができた。私たちが作成した学習モデルの予測能力は完璧ではない。だが、科学者が気付かない物質の可能性に目を向けさせてくれたという点が重要だ。今後訓練を繰り返すことで、学習モデルの予測精度をさらに向上させていく」と説明した。
今後の研究方針としては、HoB2に球状化やコーティングなどの物質加工を施した上で装置に実装する研究を進め、磁気冷凍材料としての実用化を目指していくという。
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