サブスクリプション成功の秘訣は「カスタマーエクスペリエンスの向上」にあり:サブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代(4)(3/3 ページ)
サブスクリプションに代表される、ソフトウェアビジネスによる収益化を製造業で実現するためのノウハウを紹介する本連載。第4回は、サブスクリプションという製造業にとって新しいビジネスモデルを成功させるのに必要な「カスタマーエクスペリエンス」について紹介する。
4.米国HPEがたった1年で成し遂げた顧客満足度の向上
米国の大手ハードウェアメーカーであるヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)は、カスタマーエクスペリエンスを改善させることによって、顧客満足度を向上させることを事業目標にしていた。
HPEが取り扱っているプロダクトは7万種類を超えていて、顧客の契約数は350万件をはるかに超える情報を保有していた。しかし、HPEのソフトウェアは、ソフトウェアそれぞれに採用しているライセンシング技術が異なっているため、50種類以上のライセンシング技術とポータルサイトがインターネット上にバラバラに点在しているような状況だった。そのため、HPEの顧客はライセンス情報を参照するポータルサイトに製品別にそれぞれ個別にアクセスすることを強いられていた。
そこで、HPEは同社で採用しているソフトウェアそれぞれのライセンシング技術を、全て同じポータルサイトで、同じカスタマーエクスペリエンスで利用できる環境を構築することにした。ポータルサイトでは、顧客自身が全てのHPEの製品のライセンス情報が確認できて、あらゆる手続きをセルフサービスで行える。どの製品のライセンスも全て1つのポータルからアクティベーションすることができ、ソフトウェアのダウンロードやアップグレードをも可能にしている。ソフトウェアの全てのライフサイクルを完結できる環境をワンストップで体験できるよう、カスタマーエクスペリエンスを徹底的に向上させたポータルサイトの構築を成し遂げた。
その結果、HPEは統合されたポータルサイトをローンチしてからたった1年で顧客満足度を50%改善させることに成功した。そのカスタマーエクスペリエンス向上の効果が、HPEの収益向上とコスト削減にも貢献していることは容易に想像できるだろう。
5.自前主義から脱却し、変革のために新たな分野の技術を導入する
カスタマーエクスペリエンスの向上におけるデジタルトランスフォーメーションの実現に取り組むにあたって、独自に全ての変革を行おうとすると時間もコストも掛かってしまう。
柔軟かつスピーディーに展開が行えるよう、あらゆるソリューションや収益化のノウハウを活用し、ケイパビリティ(組織的能力)を補完することで、企業は自らのコアコンピタンスに集中した上で、今まで実現できなかった優れたサービスを顧客に届けることが可能になる。従来の製造業のビジネスモデルではそこまで重視されなかったカスタマーエクスペリエンスだが、今後、顧客起点で新しいビジネスを展開するためには、新たな分野の技術を導入するなどして強化していく必要があるだろう。
しかし、ここでジレンマに陥ることになる。カスタマーエクスペリエンスの向上実現のため、顧客に対してパーソナライゼージョンを実施したり、モノやサービスをカスタマイズしたりするとオペレーションが複雑になり、運用コストが増大してしまう。IT人材も不足しているため、新しいビジネスに人を割り当てる余裕もない。そのため、自動化によって運用効率を向上させてコスト削減し、新たな投資を行えるようにならなければ新たなビジネスの展開と収益化は難しくなってくる。
そこで次回は、製造業がソフトウェアビジネスを展開する上で、運用業務を効率化させてコストを削減する方法について考えてみたいと思う。
筆者プロフィール
前田 利幸(まえだ としゆき) タレスDIS CPLジャパン株式会社(日本セーフネット株式会社/ジェムアルト株式会社)ソフトウェアマネタイゼーション事業本部 シニアアプリセールスコンサルタント ビジネス開発部 部長
ソフトウェアビジネスに取り組む企業に対して、マネタイズを実現するためのコンサルティングやトレーニング、ソリューション提案を実施。全国各地で収益化に関するセミナーや講演活動を展開。IoT関連企業でシニアコンサルタントを経て現職。同志社大学 経営学修士(MBA)。二児の父。
https://sentinel.gemalto.jp/software-monetization-solutions/
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「サブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代」バックナンバー
- 製造業がサブスクリプションに踏み出す上で理解すべき3つのポイント
サブスクリプションに代表される、ソフトウェアビジネスによる収益化を製造業で実現するためのノウハウを紹介する本連載。第3回は、サブスクリプションや従量制に代表される新しいビジネスモデルに移行する上で理解しておくべき3つのポイントを紹介する。 - 稼ぎを生み出すデジタルトランスフォーメーションを実現する4つのポイント
サブスクリプションに代表される、ソフトウェアビジネスによる収益化を製造業で実現するためのノウハウを紹介する本連載。第2回は、収益化に直結するデジタルトランスフォーメーションを実現する4つのポイントについて紹介する。 - 製造業が今、ソフトウェアビジネスに力を入れるべき理由
サブスクリプション、IoT、AI、DXなどの言葉では、全て「ソフトウェア」が重要な役割を果たしている。本連載では、製造業がただ製品を販売するのではなく、販売した先から安定した収入を将来に渡って得ていくために、ソフトウェアによって価値を最大化させ、ビジネスを収益化していくノウハウについて紹介していく。 - 「ものづくり白書」に見る、日本の製造業の強みと弱み
高い技術力を武器に世界市場をけん引してきた日本の製造業。しかし、周囲を取り巻く環境は目まぐるしく変化し、置かれている状況は決して楽観視できるものではない。日本のモノづくりの現状を示す「ものづくり白書」では、日本の製造業独自の強みを示すとともに、固有の弱みがあることを明らかにしている。日本の製造業の持つ、強みと弱みとは何だろうか。 - 来るべきIoT時代、「ハードウェアメーカーはソフトウェア企業に転身すべし」
ジェムアルト(Gemalto)のソフトウェア収益化事業担当バイスプレジデントを務めるジャム・カーン氏が来日。同氏によれば、「従来のハードウェアメーカーがIoTを収益化していくには、ソフトウェア企業に自身を変えて行かなければならない」という。 - IoTの収益化ソリューションにOTAを追加「顧客体験がさらに向上する」
ジェムアルトは。ソフトウェア収益化ソリューションである「Sentinel」に、ソフトウェアを自動でアップデートして常に最新版にするOTA(Over the Air)機能となる「Sentinel Up」を追加する。2018年3月からトライアルを開始しており、同年7月に正式リリースする計画だ。