製造業が今、ソフトウェアビジネスに力を入れるべき理由:サブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代(1)(1/3 ページ)
サブスクリプション、IoT、AI、DXなどの言葉では、全て「ソフトウェア」が重要な役割を果たしている。本連載では、製造業がただ製品を販売するのではなく、販売した先から安定した収入を将来に渡って得ていくために、ソフトウェアによって価値を最大化させ、ビジネスを収益化していくノウハウについて紹介していく。
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サブスクリプション、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、DX(デジタルトランスフォーメーション)。今、これらの言葉をメディアから見聞きしないようなことは1日もないといえるだろう。そして、これらが現在の製造業にとっても興味深い事柄であることは間違いない。さらに、これらの言葉の共通点は全て「ソフトウェア」がキーコンポーネントとして、ビジネス上重要な役割を果たしていると断言できるだろう。
今、ソフトウェアビジネスに積極的に取り組もうとしている製造業が世界的に現れている。彼らは自らをハードウェアメーカーだとは称しない、新しいタイプの事業体として新しいビジネスモデルを導入し、ビジネスドメインの再定義を行っている。まさに今が製造業にとって転換の時代だ。
しかし、これまでハードウェアを販売することによって成り立っていた企業が、これからソフトウェアビジネスを始めると息巻いても、どこから何に手を付けていけば良いのか分からない、というのが本音ではないか。
筆者は日々、ソフトウェアビジネスに取り組もうと考えている製造業のお客さまを中心に、ソフトウェアの収益化のコンサルティングや、アドバイス、トレーニングを実施している。
本連載では、従来の製造業が製品を販売するだけではなく、販売した先から安定した収入を将来に渡って得るべく、ソフトウェアをどのようにして価値を最大化させ、ビジネスを収益化していくのか、そのノウハウを余すことなく紹介していきたいと思う。
ソフトウェアに付加価値のある戦略
多くの日本の製造業は、従来のハードウェア売り切り型のビジネスモデルでは限界に近づいていると認識している。デバイスの生産量を増やすだけでは安定的な収益を得ることはできず、また将来に渡って持続可能なビジネスモデルだとは言い切れない。そのため、従来のビジネスに代わって新たな収益源を模索している現在において、ソフトウェアによるビジネスが脚光を浴びつつある。
現在、製造業、ハードウェアメーカーにとって、ソフトウェアに対する意識に大きな変化が訪れている。従来、ソフトウェアはハードウェアに対する付属品であり、無償でハードウェアに添付されているのが当たり前の時代が長く続いた。しかし、IoTが浸透しつつある現在は、ソフトウェアに価格を付けて提供するだけではなく、そのソフトウェアのライセンスモデルも多彩になってきている。IoTとソフトウェアビジネス躍進のその背景にあるのは、皮肉にもハードウェアの性能向上と、コモディティ化、データ通信の高速化がソフトウェアの進化に拍車を掛けている。
また、製造業がソフトウェアビジネスに注目している理由の一つとして、ソフトウェアデファイン(Software Define:ソフトウェア定義化)の流れだ。従来ハードウェアでしか実現できなかったソリューションがソフトウェアで可能になっている。もはやハードウェアはソフトウェアを入れるタダの箱になった。入れ物は何でも良い、これからの製品付加価値はソフトウェアにあるという戦略に移行している。
例えば、シスコシステムズのネットワーク機器のスペックは全てソフトウェアで制御されている。ベースバンドや容量、ポートの有効化はソフトウェアで制御されていて、仮想環境上で動作可能だ。物理的なストレージデバイスなどの製品も仮想化され容量制御も全てソフトウェアだ。米国Tesla(テスラ)の電気自動車のバッテリーの容量もソフトウェアで機能制御されていて、ソフトウェアの更新によって上位車種にアップグレードが可能になる。ソフトウェアによって制限されていたバッテリー容量が開放されることによって、巡航距離を上位モデルに移行させるが可能になる。
これらは、製造業にとって従来にない新しいアプローチであり、その全てを可能にしているのはソフトウェアの役割である。
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