サブスクリプション成功の秘訣は「カスタマーエクスペリエンスの向上」にあり:サブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代(4)(2/3 ページ)
サブスクリプションに代表される、ソフトウェアビジネスによる収益化を製造業で実現するためのノウハウを紹介する本連載。第4回は、サブスクリプションという製造業にとって新しいビジネスモデルを成功させるのに必要な「カスタマーエクスペリエンス」について紹介する。
2.カスタマーエクスペリエンスは顧客満足度の向上だけにとどまらない
また、カスタマーエクスペリエンスの効果は契約後の顧客満足度の向上だけにとどまらない。収益力の強化や企業の業務効率化、コスト削減にも威力を発揮する。米国のカスタマーエクスペリエンスのリサーチャーであるピーター・クリス氏がハーバード・ビジネス・レビューに掲載した記事では、カスタマーエクスペリエンスが収益化に対して高い効果を発揮していることが分かる※)。
※)関連リンク:ハーバード・ビジネス・レビュー「The Value of Customer Experience, Quantified」
この記事では、良い顧客体験を得た顧客のサービスに対する消費金額は、そうでないプアな顧客体験を得た顧客と比較して140%もの差が出てくることを紹介している。しかも、プアな顧客体験を得た顧客が、1年後にそのサービスを継続利用している確率はたった43%にすぎなかった。さらに、カスタマーエクスペリエンスの強化は、サービスにかかるコストの削減を可能にする。米国の大手携帯電話キャリアであるSprint(スプリント)は、カスタマーエクスペリエンスの向上に注力した結果、顧客のサポートコストの33%削減に成功したことが分かった。
よって、カスタマーエクスペリエンスの向上に取り組むことは、製品とサービスの収益を拡大させ、顧客の契約を維持し、サポートコストの削減につながる。ソフトウェアビジネスの収益化において、極めて有力な手段として期待できるわけだ。
3.優れたカスタマーエクスペリエンスを構築するためには何をすべきか
製造業のソフトウェアビジネスにおいて、優れたカスタマーエクスペリエンスを構築するためには、商品やサービスだけではなく、ビジネスプロセス全体を最適化する必要がある。顧客満足度の向上のためには、顧客には商品を入手して契約の締結・購入に至るまでのプロセスに加えて、アクティベーションして利用可能に至るまでのプロセス、ライセンスのアップデートやアップグレード、リホストと言ったメンテナンスなど、全てにおいてのエクスペリエンスを、肯定的で快適に利用できる環境を提供する必要がある。
検討から購入・契約に至るまでの一連の顧客体験をデジタル化させて可能な限り圧縮し、興味を持った顧客をスムーズに快適に心地よく購入させるため、いつでも欲しいと思ったときにダウンロードすることができて、試したいと思ったときに製品を試せることが決め手となる。顧客のカスタマージャーニーを最大限に圧縮し、ソフトウェアのライセンス契約に対して迅速な意思決定を促せるかどうかが収益化への入り口となる。
また、ソフトウェアのライセンスは柔軟な価格設定がなされているのもカスタマーエクスペリエンスの向上につながる。必要な機能と価格設定のプランが用意されていて、個別の要求に応じてオプションが選択できるのもポイントだ。よりパーソナライズされた価格設定を可能としていて、顧客が最適なライセンスモデルを自由に選べることは満足度を高めることになる。
そして、顧客が必要なときに、自分自身で製品をアクティベート(有効化)させて、いつでも利用できるような仕組みも必要になるだろう。最新のソフトウェアのリリース情報をリアルタイムに入手できて、最新のソフトウェアがダウンロードでき、アップグレードによって最新のソフトウェアの入手も容易にしなければならない。製品のアップデートやアップグレード、利用契約の継続を自動化させて、顧客の利用に負担をかけない、シームレスな利用体験の提供は欠かせない。
しかし、ソフトウェアの稼働環境は多彩であり、製造業にとってはインターネットに接続できない環境でソフトウェアが利用されることがほとんどだ。そこで、完全オフラインの環境であってもカスタマーエクスペリエンスを損なわず、オンライン・オフラインを問わずにセキュアにライセンシングされたソフトウェアを、サブスクリプションで利用できる環境を用意できなくてはソフトウェアビジネスは成り立たないだろう。
顧客自身がソフトウェアの権利情報についてポータルサイトを通じて確認したり、ライセンスの残りアクティベーション数を参照したり、ワークフローのデジタル化によって必要な手続きを簡単に実行できたり、ほしい情報をいつでも入手可能な環境を構築したりできる。ライセンシング技術の違いも、ソフトウェアの稼働環境の違いも、全てポータルサイトが吸収する。ポータルサイトが提供する利用体験は変わらず、全て統一したオペレーションで完結できる環境を提供することがカスタマーエクスペリエンスには重要である。
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