サブスクリプション成功の秘訣は「カスタマーエクスペリエンスの向上」にあり:サブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代(4)(1/3 ページ)
サブスクリプションに代表される、ソフトウェアビジネスによる収益化を製造業で実現するためのノウハウを紹介する本連載。第4回は、サブスクリプションという製造業にとって新しいビジネスモデルを成功させるのに必要な「カスタマーエクスペリエンス」について紹介する。
サブスクリプションや従量課金といった新しいビジネスモデルの成功には、顧客の満足が必要不可欠になる。そのため、売り切り型のように販売して終わりのビジネスモデルではなく、多くの顧客に、製品やサービスを長く継続して利用してもらうことによって収益化が実現される。
顧客に長く製品を利用してもらうために、現在の多くの企業では「カスタマーエクスペリエンス」を重視した戦略を取りつつある。カスタマーエクスペリエンスとは、製品をサービスの利用を通して得られる成果を価値として提供するものだが、それにとどまらず心理的、感覚的なものも含まれる。そのため、不満と感じる部分を改善し、顧客がサービスに対して快適な利用体験を得た結果が顧客満足度として現れることになる。
今回は、製造業のソフトウェアビジネスにおいて、なぜカスタマーエクスペリエンスを向上させることが必要なのか、ビジネスにどのような効果をもたらすのか、さらにカスタマーエクスペリエンス向上のために何を行うべきなのか考えてみたい。
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1.製造業にカスタマーエクスペリエンスの向上が必要な理由
かつて、製造業のビジネスは大量に作って大量に売るビジネスモデルが中心であり、モノを売ることだけに集中して収益を上げ続けることができた。良いモノを作れば売れると考えていた時代や、モノが不足している時代に継続可能なビジネスであり、企業がマーケットの主導権を握ることが可能だった。
しかし、新興国との競争が激しくなり、近年の日本企業のエレクトロニクス系製品は、売上高、シェアともに低下してきている。今は先進国だけではなく多くの国の企業が、安価でそれなりの品質の製品を作ることができるようになり、市場にモノがあふれた結果として、モノが売れない時代が到来しているのだ。
モノがあふれている状況においては、企業と顧客のパワーバランスが崩れることになる。製品の差別化が難しくなり、顧客のニーズが多様化してきた現在において、企業はマーケットで主導権を握れなくなってきた。今やマーケットの主導権は顧客側にあるのだ。
さらに、日本の製造業の収益性の低さが追い打ちをかけることになる。経済産業省発行の「ものづくり白書2017」に記載されている「世界の製造業のROE(自己資本利益率)推移」によれば、日本の製造業のROE水準は常に低空飛行を続けている。2015年の数値では、米国、欧州のROEが8.5%であるのに対して、日本はわずか5.8%だ。
欧米の製造業がソフトウェアなどを活用したサービスビジネスで高い収益性を維持しているのに対し、日本の製造業が従来のビジネスを続けているだけでは、新たな付加価値を掲げて対抗していくことは難しい。まさに新たな価値提案や、低収益性に対する革新的な対処が急務とされている。
この状況は、デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーション(デジタル・ディスラプション)が既に起きていることを意味しているだろう。既存の産業を根底から揺るがし、崩壊させてしまうような革新的なイノベーションの一端が現れている。この変革を受け入れないまま、過去のしがらみや古き良き時代の成功体験に捉われていると、企業は衰退の一途をたどる。2000年時点におけるフォーチュン500企業の52%が、2014年にはデジタル・ディスラプションの結果として倒産、買収によって既に存在しないという、ハーバード・ビジネス・レビューの記事が衝撃を与えたのは周知の事実だ。
そういった背景から、モノの利用を通した体験や経験、結果を、価値として提供する企業が台頭している。サブスクリプションや従量課金と言った新しいビジネスモデルは、従来と全く異なる価値提案でビジネスそのものの在り方を変えている。
そこで、鍵を握るのがカスタマーエクスペリエンスである。一度きりの取引で終わることなく、顧客に製品を長く使い続けてもらうためにはカスタマーエクスペリエンスが重要であり、顧客満足度を高めて、顧客との長期的な関係を築くことができるかどうかがこれからのビジネスを左右する。顧客に選ばれる製品やサービスを展開するだけでなく、ビジネスプロセスを顧客起点で定義することが求められており、新しいビジネスモデルで安定的な収益を得るために、カスタマーエクスペリエンスの向上は不可欠な要素である。
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