機械学習とディープラーニング、どちらを使えばいいのか:AI基礎解説(2/2 ページ)
研究開発プロジェクトを先に進めるためにどのようなAI技術を使用すればいいのだろうか。本稿では、その一助とすべく、機械学習とディープラーニング(深層学習)の違いについて概説し、それぞれをどのように適用すべきかについて説明する。
機械学習とディープラーニングの選択に関する検討事項
データに関する検討事項
使用可能なデータセットを理解すると、機械学習とディープラーニングのどちらを特定のタスクに適用する必要があるかを判断するのに役立ちます。
一般的に機械学習は、より限定的で構造化されたデータが利用可能な場合に使用されます。ほとんどの機械学習アルゴリズムは、モデルを表形式データ(独立した行と列で構成される)に対して学習するように設計されています。データが表形式でなくても機械学習を適用できますが、データの操作が必要になります。例えば、センサーデータは時系列データなので、一般的な統計量(平均、中央値、標準偏差、歪度、尖度など)を使用してウィンドウ化された特徴量を抽出することで表形式に変換すれば、従来の機械学習手法で使用できます。
ディープラーニングは、ニューラルネットワークに何千万ものパラメータがあり、学習データに過適合しないニューラルネットワークを確保するために、通常、大量の学習データが必要です。CNNは、画像データに対して動作するように設計されていますが、信号のスペクトログラムなどの時間周波数計算を行うことでセンサーデータにも使用できます。LSTM(長短期記憶)ネットワークなどのRNNは、信号やテキストなどのシーケンシャルデータを操作するように設計されています。
利用可能なハードウェアと展開
どのAIアプローチを適用すべきかは、使用可能なハードウェアにも依存します。
機械学習アルゴリズムでは、必要な計算能力が少なくなります。例えば、機械学習モデルの学習であればデスクトップPCのCPUでも十分です。
ディープラーニングモデルでは、メモリと処理能力への要求が高いため、通常は特化したハードウェアが必要です。CNNなどのディープニューラルネットワーク内で実行される操作は、GPUの並列アーキテクチャに適しているため、特化したハードウェアが適切なのです。GPUが利用可能か、またはCPUで学習させる時間が十分にあるか(かなり時間がかかります)を検討する必要があります。
GPUの導入に関連するコストが高いため、クラウドやクラスタサーバを用いたディープラーニングモデルの学習が人気を博してきています。このオプションにより、複数の研究者がハードウェアを共有できます。インテルやNVIDIA、Armなどが提供する組み込み機器向けGPUへのディープラーニングモデルの実装も、組み込み機器上で高速な推論速度を提供できるため、人気が高まっています。
進化する科学のためのガイドライン
試行錯誤は常にありますが、ここまで述べてきたことは、機械学習やディープラーニングを新たに使用するエンジニアや科学者の設計プロセス全体を加速するとともに、意志決定の指針として役立ちます。機械学習とディープラーニングの違いを理解し、プロジェクトの最終的な用途を把握し、データとハードウェアの可用性を考慮することで、設計チームはそれぞれのプロジェクトに最適なアプローチをより迅速に把握することができるでしょう。
筆者プロフィール
阿部 悟(あべ さとる) MathWorks Japan インダストリーマーケティング部 部長
1989年から、本田技術研究所 基礎研究所で超低エミッションエンジン、希薄燃焼エンジンなどの制御システム基礎研究、Formula-1、Indy Carレースの電装システム開発部門で開発をリーディング。2003年からはContinental、AVLなどサプライヤーサイドでエンジン、ボディー、シャシーなどの電装製品の開発に従事。2012年から現職。これまでの経験を生かして業界マーケティング活動を通してモデルベース開発の推進に尽力している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「AI駆動システム」が急速に成長、2020年に注視すべき5つのAIトレンドとは
2020年は「AI駆動システム」の年になる。AIが低消費電力、低コストの組み込み機器へ導入されるようになり、強化学習がゲームから実世界の産業用途へと移行するにつれて、新たなフロンティアが成長をけん引するだろう。 - 組み込みAIは必要不可欠な技術へ、推論に加えて学習も視野に
2017年初時点では芽吹きつつあった程度の組み込みAI。今や大きな幹にまで成長しつつあり、2019年からは、組み込み機器を開発する上で組み込みAIは当たり前の存在になっていきそうだ。 - AIと機械学習とディープラーニングは何が違うのか
技術開発の進展により加速度的に進化しているAI(人工知能)。このAIという言葉とともに語られているのが、機械学習やディープラーニングだ。AIと機械学習、そしてディープラーニングの違いとは何なのか。 - 機械学習はどうやって使うのか――意外と地道な積み重ね
前編では、AI(人工知能)と機械学習、ディープラーニングといった用語の説明から、AIを実現する技術の1つである機械学習が製造業を中心とした産業界にも徐々に使われ始めている話をした。後編では、機械学習を使ったデータ分析と予測モデル作成について説明する。 - 機械学習で入ってはいけないデータが混入する「リーケージ」とその対策
製造業が機械学習で間違いやすいポイントと、その回避の仕方、データ解釈の方法のコツなどについて、広く知見を共有することを目指す本連載。第1回では「リーケージ」について取り上げる。 - 機械学習による逆問題への対処法、材料配合や工程条件を最適化せよ
製造業が機械学習で間違いやすいポイントと、その回避の仕方、データ解釈の方法のコツなどについて、広く知見を共有することを目指す本連載。第2回は、製造業で求められる材料配合や工程条件の予測に必要な、機械学習による逆問題への対処法ついて取り上げる。 - 世界を変えるAI技術「ディープラーニング」が製造業にもたらすインパクト
人工知能やディープラーニングといった言葉が注目を集めていますが、それはITの世界だけにとどまるものではなく、製造業においても導入・検討されています。製造業にとって人工知能やディープラーニングがどのようなインパクトをもたらすか、解説します。