30年前に予見した「有人化工場」、機械データサービス定着を目指すシチズンの挑戦:製造業×IoT キーマンインタビュー(2/4 ページ)
製造業においても「モノからコトへ」のサービス化が加速する中、30年前からデータサービスのビジネス化に取り組んできたのが工作機械メーカーのシチズンマシナリーである。なぜ30年前からデータサービスに取り組んできたのか。現在はどのような状況なのか。データサービス事業を主導するシチズンマシナリー 執行役員の柳平茂夫氏に話を聞いた。
時代を先取りしすぎた「こたつLAN」
MONOist 30年前に現在のスマートファクトリーの原形が既に描かれていたというわけですね。
柳平氏 こうしたコンセプトを描いただけではなく「有人化工場」や、個々の技術を形にするために実際に開発を進めた。その最初の製品として1992年に製品化したのが「Cincom こたつLAN」である。これは中小製造業を対象とし「事務所にいながら現場の機械をモニタリング」をコンセプトとした。当時はWi-Fiなどのネットワークはもちろん、インターネットも普及前だったので、自前でネットワーク構築を行いPCへのアプリケーションも用意して提案を行った。
その後もネットワーク接続が行えない古い機械の情報を取得するためにI/Oをそのままネットワークで使用する信号に変換するFA LANアダプターを展開するなど、現場機械のデータ活用サービスを次々に開発して世に打ち出していった。また、現在にもつながるブランドである「alkapply(アルカプリ)」や「alkart(アルカート)」も既にこの頃から打ち出している。
しかし、世の中の環境に対してあまりにも早すぎたのだろう。当時はインターネット接続するにもダイヤルアップ接続で、工場の機械の状況を見るのにいちいち接続する手間がかかる。顧客も「見に行けば分かるのに、そこまで必要ない」という反応で、全く普及は進まなかった。
2011年から再始動しデジタルソリューションを整理
MONOist その後はどういう取り組みを進めたのでしょうか。
柳平氏 2000年過ぎから2010年頃までは、デジタルソリューションの提案は積極的な活動がなかった時期だ。工作機械市場が好調でこうした付加サービスにまで手が回らなかったというのも要因としてはある。
ただ「有人化工場」のコンセプトを捨てたわけではなく、2011年頃にあらためてデジタルソリューションについて整理し「アルカプリソリューション」として再始動した。2年に1度の工作機械の見本市「JIMTOF(日本国際工作機械見本市)」にも2012年、2014年、2016年、2018年と4回連続でこれらのソリューションを出展している。
2015年頃からはドイツのモノづくり革新プロジェクト「インダストリー4.0」などスマートファクトリー化への動きも活発化し「JIMTOF2016」からはこれらを取り入れたデジタルサービスなどの紹介が目立つようになった(※)。
(※)関連記事:ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【前編】
ただ、それ以前はWebサイトを中心に顧客との接点を強化する取り組みを積極的に行ってきた。オプション機能を実現するソフトウェアをWebサイトで販売する「アルカートショップ」、取扱説明書や操作手順動画を確認できる「アルカートサイト」、NCプログラムのeラーニングを受けられる「アルカートスクール」などだ。
この中で比較的反応が良いのは「アルカートスクール」だが、工作機械の中心顧客である中小製造業の場合、「インターネットで有料」という点が、大きなハードルになった。実際に「アルカートスクール」は、インターネット経由のeラーニングだけではあまり利用されなかったが、苦肉の策としてDVDに落として販売を開始すると売れ始めた。そこで「形があるものにする必要がある」と考えて、カード型ギフト券のようなものも作ってみたが、これは受け入れられず「どういう形だと使ってもらえるのか」で試行錯誤を繰り返している状況だ。今後は顧客企業ごとのポータルサイトに進化させることで使ってもらえるような環境を作っていきたい。
一方で、「インダストリー4.0」などの流れから、工場内の機器の稼働情報を活用したい要望が活発化してきた。現在のデジタルソリューションの中心は、機械の稼働状況を管理者に届ける機械の稼働監視システム「アルカートライブ」になっている。「アルカートライブ」での稼働情報の蓄積をベースとしたデータの収集、活用を進めているところだ。
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