機能をとことんそぎ落とした“キヤノンらしくない”デジカメ「iNSPiC REC」:デザインの力(3/4 ページ)
キヤノンから“キヤノンらしくない”デジカメ「iNSPiC REC」が発売された。シンプル過ぎるその見た目はトイカメラのようにも見えるが、このカタチになったのには理由がある。製品企画担当者に「iNSPiC REC」の開発背景と狙いを聞いた。
不安の声を吹き飛ばし、プロジェクトを成功に導いた転機
iNSPiC RECの製品化までの道のりは、チャレンジそのものだった。加藤氏らはコンセプトの初期段階、モックアップを用いて社内の反応を探った。結果は、当然と言えば当然だが、これまでのターゲット層とは大きく異なる新規製品であるため、社内の評価はさまざまだった。デジカメ市場が転換期にあるからこそ、社内で新しい挑戦が必要とされながらも、「『本当に、大丈夫なのか?』という声も少なからずありました」と加藤氏は振り返る。
だが、そうしたネガティブな反応よりも、「どんどんやっていこう!」とプロジェクトを後押ししてくれる声の方が大きく、企画を前に進めることができたという。
転機が訪れたのは、企画開始から約1年後のこと。2018年6月に米国のYouTuber向けイベントに出展し、iNSPiC RECのモックアップを披露したのだ。狙いは米国のYouTuberたち。米国では日本以上にYouTuberがスター扱いされているため、彼らを若者&女性の代表としてターゲットに設定し、iNSPiC RECに対する反応を得ようとした。その結果、YouTuberたちの評価は非常に高く、コンセプトに対する反応も上々だったという。このイベント出展を機に、自分たちの狙いが間違っていなかったことに確信を持ち、その後プロジェクトの勢いは増していく。
商品化に向けては、社内の各部門から若手を中心にメンバーを招集。そのほとんどのメンバーが他のプロジェクトとの兼務で、製品検討を進めていた。
新たな試みだったのが、クラウドファンディング「Makuake」の利用だ。キヤノンとして新製品のプロモーションにクラウドファンディングを活用したのは初めてのことで、マーケティングチームも女性社員を中心に構成。2019年10月にMakuakeのページで情報の告知を開始した。その後、すぐにWebのニュース記事や口コミでiNSPiC RECの話題が広まり、「予想を超える勢いで支援が集まりました」とキヤノンマーケティングジャパン コンスーマビジネスユニット コンスーマ商品企画本部 浅葉森氏は述べる。
実際、告知開始から約12時間で、予約販売台数1000台が完売となった。Makuakeの告知ページには「頑張れ、キヤノン」「こういう気軽なカメラを待っていた」「早く使いたい」「子供に持たせたい」などといった応援コメントが多数寄せられた。先行予約という意味合いでもこの結果は大成功といえるだろう。
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