EV用パワコンの体積が半分に、三菱電機が小型化技術を新開発:電気自動車
三菱電機は2020年1月29日、EV用パワーコンディショナーの小型化技術を開発したと発表した。小型化により、一般家庭への導入が進展すると予想される。
三菱電機は2020年1月29日、東京都内で開催した記者会見で、電気自動車(EV)用パワーコンディショナーの小型化技術を開発したと発表した。開発技術を用いて実証機を試作し、従来の同社製品と比較して体積を約半分に抑えることに成功した。住宅用車庫など狭いスペースに起きやすくすることで、一般家庭への導入を後押しする。
EV用パワーコンディショナーの市場規模は現在10億円程度だが、同社は10年後までに数百億円の市場に成長すると予想している。小型で高効率なEV用パワーコンディショナーを市場投入することで、需要を取り込む。
EVを蓄電池として活用するニーズの高まり
三菱電機 先端技術総合研究所長 田中博文氏は「近年、EVを蓄電池として利用するニーズが高まりを見せている」と語る。その理由として田中氏は、「2019年11月以降、固定価格買い取り制度(FIT)が順次満了することに伴い、太陽光発電による余剰電力をEVの蓄電池にためて、自家消費する傾向が強まっていることが要因だ。もう1つの理由は、自然災害の増加を背景に、EVを停電時の非常用電源となる蓄電池として使うことに注目が集まっているためだ」と説明した。
蓄電して自家消費するには、電力を適切に変換するためのEV用パワーコンディショナーが必要となる。ただ、機器を設置するために専用スペースを設けなければならないため、「住宅用車庫などの狭いスペースには設置しづらい」(田中氏)という課題があった。今回の技術開発によって機器の小型化が進めば、一般家庭へのEV用パワーコンディショナーの導入がより進展すると予想される。
パルス周期の短縮化などにより、機器の小型化を実現
三菱電機 先端技術総合研究所 電力変換システム技術部長 東聖氏は「今回の技術開発を進める上で、EV用パワーコンディショナー内のDC-DCコンバーターやインバーターを構成するリアクトルと呼ばれる部品に注目した」と語った。リアクトルはEV用パワーコンディショナーの体積の大半を占めるが、部品自体の体積が大きく、この点が以前から課題視されてきたという。「リアクトルは機器の安定的な動作を実現するために、パルス電圧のノイズを除去する役割を担っており、その体積は入力電圧のパルス周期と大きさに応じて決まる。逆に言えば、パルス周期を短くし、入力電圧を低下させることができれば、小型化が可能になる」(東氏)。
そこで同社は2つの研究に取り組んだ。1つ目は「パワー半導体素子の高速スイッチング化」だ。スイッチングとはDC-DCコンバーターを構成するパワー半導体素子のオン/オフを切り替える動作のことで、これを繰り返すことでパルスが発生する。今回、スイッチング速度を高速化する技術を新たに開発し、パルス周期を短くすることに成功した。2つ目は、3段階の電圧を使って電力を出力する「3レベルインバーター回路」の適用だ。3レベルインバーター回路は従来の「2レベルインバーター回路」に比べて電圧の振幅を低減でき、リアクトルへの入力電圧量を下げることが可能となる。これにより、リアクトルの小型化を達成した。
また、パワーコンディショナーの小型化と同時に、低出力時の電力損失を低減する高効率制御技術の開発にも取り組んだ。一般家庭で蓄電池を使用する場合、電子レンジなどの家電向けに1kW以下の低出力を高頻度に繰り返すためだ。DC-DCコンバーターは現行機で使用するのは1台のみだが、実証機では2台を使用する構成に変えた。低出力時は、2台のうち1台だけを動作させ、動作中のDC-DCコンバーターのパワー半導体素子のスイッチングを一部停止させる。これにより、1kW以下の低出力時の電力損失を従来比約30%削減することに成功したという。
会見では実証機の具体的な寸法については明らかにされなかったものの、東氏は「今後は小型で高効率なEV用パワーコンディショナーの量産化を目指し、体制を整えていく」として意欲を見せた。
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