製造業における未来型思考 〜自ら未来を創り出せる力を身に付けるために〜:次の世代に向けて(2/2 ページ)
今、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しながら、自社の製品やサービスの未来戦略をデザインすることで、新たなビジネスをプロデュースできる人材開発が急務となっている。本稿では、近年話題の「製造業における未来型思考」について取り上げ、その考え方のヒントを提示する。
3.製造業に求められる未来思考な人材
さて、前述の4つの価値をバランスよく未来思考で発想できる人材になるには、どのような能力を身に付ける必要があるでしょうか。日本の製造業は、製品において高品質は維持できたものの、人件費の高騰によるコスト高に苦しみ、同時に新興国の台頭により、主要な製品カテゴリーの地位を他国の企業に譲り渡していることは否めません。追う側と追われる側の違いといえばそれまでですが、ひとたび追われる側となったとき、今までのやり方(学び)だけでは持続的な発展に限界があることも見えてきます。追う側は学びの対象が与えられ明確な目標設定ができますが、追われる側は学びの対象を自分で定義しなければならないのです。すなわち、「0」そのものを自ら創り出す力が求められています。
特に、従来型のビジネスモデルや技術に慣れきってしまった中堅社会人には、なかなか獲得することの難しい能力です。これまで学んできた典型的な学びのスタイルは、学校教育でおなじみの講義形式であり、「先生」と「学生」という関係性があって成立する知識の伝授です。先生が学びの対象を用意し、学生がその対象を学んでいく。学生は、自分が知らない知識を先生から学び取るわけです。日本の戦後復興期でも、米国が「先生」であり、日本が「学生」のような関係性でした。しかし、未来を思考する場合には、先生も未来の知識を持ってないので、従来型のように先生から学生へ既存知識を伝授する関係だけでは、次世代のビジネスに求められる力の育成方法としては、必ずしも十分ではありません。
4.新しい学びの扉を開こう ――未来戦略デザイン――
もし、社長から「君たち、わが社の30年後の未来戦略を構想してくれ。期待しているよ」と言われたら、一体何を提言すればいいのでしょうか。企業の未来戦略を即答するのは容易なことではありません。最近の製造企業では、DX推進のための特別部署が設置され、日々このような未来の問いに対して悪戦苦闘しています。1人の能力や特定の知識だけでは限界があります。その際、部内や社内の枠を超えた異業種が多人数でお互いの知識を出し合いながら、多面的に仮説を出し合うグループワーク形式が、一つの活動手段として有効性があるといわれています。
集まった人で協力し合うことで協調性も養われ、複数の人が集まって仕事をする社会においては理にかなった方法です。ところが、グループ全員が対等に意見交換するはずだったのに、結局のところ声の大きい人や役職が上の人の意見に偏ってしまうことも少なくありません。こうなると、グループを構成する人々の多様性を最大限に発揮できたかどうかは怪しくなってしまいます。さらに、企業がグローバル化すれば、グループを構成する人の国籍は当然異なり、多国籍でのディスカッションとなります。このような異文化の違いを相互に理解し、人の資質を最大限に発揮できる環境下で、未来を定義することが極めて重要になってきます。
従来、日本企業は「モノづくりニッポン」の成功神話をよりどころとする傾向がありますが、今後も継続した成功が続くとは限りません。これまでとは異なる新しい考え方や先端テクノロジーの知識が必要となる時代です。製造業において、未来思考ができる人材に求められるものは、製品技術力に加え、人的コミュニケーション力、グローバル対応力、相手を認め自分をアピールできる力、マネジメント力、そして、情報テクノロジーを駆使できる複合的で柔軟な思考であると考えます。
2020年、新年を迎えました。50年前の先人たちが思い描いた未来技術で、今私たちの生活は恩恵を受けています。同様に私たちも、次の世代に向けて未来戦略のデザインに取り組むべきではないでしょうか。
筆者プロフィール
後藤智(ごとうさとし)
1963年生まれ。青山学院Hicon特任研究員。早稲田大学IPS・北九州コンソーシアム 理事。PTCジャパン ディレクター フェロー。
本稿で取り上げた“製造業における未来型思考”については、2020年2月17日開催の「未来戦略デザイン塾:特別講座2020」の中で、より実践的な取り組みを紹介する予定です。
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