臓器内の全細胞を調べる高速イメージングと高速解析技術を開発:医療技術ニュース
理化学研究所は、透明化した臓器内の全ての細胞を解析する「全細胞解析」を実用化し、これを用いて、マウス脳を構成する約1億個の細胞を解析することに成功した。
理化学研究所は2019年12月13日、透明化した臓器内の全ての細胞を解析する「全細胞解析」を実用化し、これを用いて、マウス脳を構成する約1億個の細胞を解析することに成功したと発表した。組織透明化技術「CUBIC」に適し、新たに開発した高速イメージング技術「MOVIE」と高速データ解析技術による成果となる。同研究所生命機能科学研究センターのチームリーダー上田泰己氏が大阪大学と共同で研究した。
研究では、透明化されたサンプルの3次元撮影を高速化するために、「MOVIE-scan(高速撮影)」「MOVIE-skip(効率撮影)」「MOVIE-focus(リアルタイムオートフォーカス)」からなる高速イメージング技術MOVIEを開発した。
撮影における時間短縮のために、MOVIE-scanでは、サンプルを等速移動させながら撮影した。また、顕微鏡の視野よりも大きいサンプルに対して撮影の無駄が起きないよう、MOVIE-skipでは、次のタイルの初期位置にサンプルが戻る際に、サンプルの有無と存在場所を確認し、サンプル外の空間を撮影する不用な時間を除いた。
MOVIE-focusは、光シート焦点面を毎回前後に微妙に振動させ、サンプルの移動に伴って生じた焦点位置が前後どちら側に変化したのかをリアルタイムで画像解析し、光シート位置を補正。移動しながら常に焦点を合わせ続けられるため、毎回明瞭な画像が得られた。
これらの技術を併せ、光シート蛍光顕微鏡「MOVIE顕微鏡」を作製。観察用対物レンズの直後にダイクロイックミラーを置いて異なる波長の蛍光シグナルを分離し、2台のカメラで同時に撮影できるようにした。細胞の位置情報と状態情報の関係が正確に分かり、1秒間に20枚以上の画像を取得。透明化されたマウス全脳の場合、従来の5分の1以下にあたる5〜12時間で高解像に撮影できるようになった。
また、CPUとGPUの並列計算に最適化したアルゴリズムを利用した3次元イメージの解析手法を開発し、データ解析に要する時間を8時間以内に短縮。実証試験では、マウス全脳の全細胞を2時間以内で検出。マウス全脳が約1億個の細胞で構成されていることを解明し、マウス全脳地図「CUBIC-Atlas」を更新した。
さらに、このデータを基に、感染した細胞が蛍光タンパク質を発現するようにしたアデノ随伴ウイルスベクターをマウスに投与してマウス全脳の解析を行い、大脳新皮質や嗅球周辺の細胞の多くが蛍光タンパク質を発現していることを突き止めた。
本研究は、生物学や医学の基礎研究への応用、さらには創薬や臨床病理診断への応用にも寄与し、次世代の研究基盤になると期待される。
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