ばら積みピックアップ精度を4時間で95%に、AIで学習時間を720分の1にする技術:2019国際ロボット展
安川電機のAI(人工知能)関連子会社であるエイアイキューブは「2019国際ロボット展(iREX2019)」(2019年12月18〜21日、東京ビッグサイト)の安川電機ブースに出展し、ロボットのばら積みピックアップの学習を簡略化するシミュレーション技術を披露した。ロボットのばら積みピックアップの学習と調整に従来は数カ月かかっていたのに対し、新技術を使えば数時間で95%前後の精度が実現できるという。
安川電機のAI(人工知能)関連子会社であるエイアイキューブは「2019国際ロボット展(iREX2019)」(2019年12月18〜21日、東京ビッグサイト)の安川電機ブースに出展し、ロボットのばら積みピックアップの学習を簡略化するシミュレーション技術「Alliom」を披露した。ロボットのばら積みピックアップの学習と調整に従来は数カ月かかっていたのに対し、新技術を使えば数時間で95%前後の精度が実現できるという。
学習期間が長すぎるという問題
ばら積み部品のピックアップは、積まれた部品の配置が毎回変化し、ピックアップ可能な位置も変わるために、ロボットにとっては非常に難易度が高い作業である。これらの変化し続ける環境に対し、全ての配置や動作をプログラミングするのは不可能である。そこで、最適なプログラミング生成のために機械学習技術などAI関連技術を活用する動きが広がっている。
ただ、実機を使って学習をすると非常に時間がかかる他、学習の最中にハンドやアームが衝突して破損するケースなどがあり、非常に負担が大きい。一方デジタル環境における学習を実行しようとした場合、学習に必要なワークの配置画像が何万枚も必要となり、そのデータを準備する作業が大変である。
「これらは技術のポテンシャルは示したが、実際の製造現場に導入することを考えた場合、現実的ではなく使えなかった」とエイアイキューブ代表取締役社長の久保田由美恵氏は語る。
エイアイキューブは、2018年3月に設立されたFA向けのAI活用促進を目指す安川電機の子会社である。安川電機と資本業務提携を結ぶAI企業クロスコンパスとの戦略的提携などを生かし、AI技術の活用領域拡大に取り組んでいる。実はエイアイキューブ発足前となる2017年国際ロボット展でも安川電機としては「ばら積みピックアップ技術」を紹介していたが「精度は非常に高いものに仕上げていたが、学習や調整作業に数カ月かかっていた。展示会の中では大きな関心を集めることに成功したが、展示会後に製造現場での提案を進めてみると、使えるようになるまでの時間がかかりすぎて、導入が現実的ではないということが分かった。そこで導入までの期間を短縮し、負荷をできる限り低減させるということを狙って開発したのが新たな技術だ」と久保田氏は語っている。
1つの実対象でシミュレーション画像を作る技術とリアルとの比較
新技術「Alliom」は、主に2つの技術で構成されている。1つは学習用の素材作成を容易にする「疑似データの作成技術」である。ピックアップしたいワーク1つの形状を3Dスキャンすると、そのスキャンしたワークをランダムに配置しばら積みされた状態を疑似的に作り出せる。このパターンを無限に作り出すことで、学習用素材を苦労せずに集めることが可能となる。
ただ、デジタル空間で仮想的に作り出したデータと、リアルの世界には誤差が生じる。そこで、作成されたデータと、数枚〜100枚程度のリアルな実画像との差をAIに比較させて特徴点を抽出。限りなく実データに近い仮想データを作り出すことができるようにした。
これらの学習データを基に、ロボットの作業プログラムまで自動で生成することが可能。「Alliom」を使うことで「夜に学習させて帰ると、次の日の朝には90%以上の精度でピックアップできるようになっている。多品種少量化が進む製造現場でも効果的に使える。また、ピックアップだけではなく品質保証などの場面でも活躍が期待される。従来は製造現場の品質検査でAIを活用するには、不良品のデータが少なすぎて利用が難しかったが、新技術を活用すれば、少ない実データで学習が可能となる」と久保田氏はその価値について述べている。
エイアイキューブではこれらの技術をまずは安川電機のロボットに導入する計画。将来的には外部販売なども検討していくとしている。
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